ら

ベネデッタのらのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
3.6
舞台となる17世紀イタリアの小さな町の修道院は、現代に通ずる社会全体のシステムのアナロジーとしてもとらえられる。その権力構造をかき乱し、ゆるがす存在としてのベネデッタ。彼女が抑圧からの開放だけでなく、権力の獲得へ向かう人物であるところに特に面白さを感じた(その意志があったのかどうかは不明だが)。「権力についての映画」という意味では『TAR/ター』との同時代性も感じる。女性の欲望をモチーフにしたり同性愛的な愛を描いたりする映画は少なくないが、ここまで容赦ない映画はそうそうない。

強烈な描写で気を引こうとする意図がやや強く感じられるところは気になるが、それもポール・ヴァーホーヴェンらしい。徹底したリアリストの描く"あえて"の露悪性というか。ナンスプロイテーションやピカレスクロマンのようなジャンル性と俗っぽさを残しつつも、史実に基づいて想像力をめぐらせた娯楽作品になっており、そのあたりのバランスも絶妙だった。
ら