スペクター

ベネデッタのスペクターのネタバレレビュー・内容・結末

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

史実、当時の裁判記録を基にした本を読んで魅了されたヴァーホーヴェンが映画化し、カトリック圏で波紋を呼んだらしい本作。

少女時代に盗賊に鉢合わせするも、神の加護を思わせる出来事に気味悪がりそのまま立ち去る盗賊。そんな彼らより神の名の下に金を巻き上げる教会の方が質が悪いという描き方から始まる。当時教会に入る女性は貴族か商人の娘(家督、稼業を継がせられないから)というある意味身売り的理由だったという。

マリア像が倒れてきたときにキスをしたとか、怪しいエピソードが続くけど、それでも夢に見るくらいキリストへの愛は本物で他の修道女への優しさもある。信仰心は揺らがないように見えたが、バルトロメアという農家の娘が逃れるようにして教会にやってきてから雲行きが怪しくなる。
顔立ちは良いのに絶妙に無邪気で品がない彼女のことが気になりだす。トイレのシーンなんかちょっと笑ってしまった。

その頃からうなされ始め、キリストの幻視からの聖痕が現れるように。神からの祝福だと周りが持ち上げるようになり、修道院長に選ばれた後バルトロメアとの明け透けなレズシーンが展開される。古い欧米のポルノに修道女モノってあるけど、あれを思わせる。禁欲で束縛されていた修道女があるきっかけでタガが外れ性欲に溺れるみたいな。
プライバシーの無い集団生活から個室に変わったことを考えるとかなり怪しくなるし、前の修道院長(シスター・フェリシタ)が聖痕の件を怪しむんだけど、そこはベネデッタの立ち回りではね除ける。
そのせいでシスター・フェリシタの娘クリスティナに悲劇が起こる。実の母親に半ば裏切られたクリスティナは可哀想。
フェリシタとベネデッタを危険視した教皇大使が彼女を糾弾しようと動き出す。
けど、教皇大使は聖職者でありながら見る限りでは禁欲、慎ましさとは程遠い生活で、愛人作って妊娠までさせているのにそれを隠すことも恥じることもない。
どう見てもこいつは神の名を語った偽善者、この映画で一番の悪党。監督が強く描きたかった部分の1つでしょう。聖職者や宗教権力の腐敗と欺瞞。

ちなみになぜ教皇大使がバチカンでなくフィレンツェにいたのかと言えば、当時フィレンツェの名家メディチ家が教皇を輩出していたり、財務管理、金融業務を担当していて教皇庁とズブズブだったことが関係あると思われる。

しかし当時はペストが流行していてパンデミック状態、この映画が完成する直前にコロナが流行するってそんな偶然ある?
ベネデッタが一度死んで甦るという奇跡を演出して、彼女がいる町ペシアにペストがやってきて大勢が死ぬとキリストからの予言を伝える。
そこに教皇大使がやってきて、バルトロメアを拷問してベネデッタの罪を自白させる。その時使う苦悩の梨っていう道具のメカニズムがエグい。
同性愛の証拠の品も見つかり、火あぶりの刑が決まる。当時17世紀は魔女狩りの最盛期でもある。
しかし、黙ってやられるベネデッタではなく、キリストが取り憑いたような声による大立ち回り。民衆は彼女を支持し、そのうえあることが発覚し、処刑の広場は混乱を極めていく…。
そして最後に彼女の取った行動にも注目。

お堅い歴史モノで終わらせず、エンタメ性を盛り込むヴァーホーヴェン流が徹底されている。ってか80歳超えても全く衰えていない。本作では先進的な無神論者という立場で波風を立てる。その上で女性の趣味がよろしいことで。

女性は聖職者になれない世界で権力を得るにはああでもするしかない。聖痕を受けて聖人に選ばれるくらいしか方法がなかったことを考えればベネデッタの行動原理は理解できる。キリスト教に限らず、宗教そのものが男尊女卑の性質を持っている。それに抗って何が悪い?そんなメッセージがダイレクトに伝わる。

ただ、非科学的で非合理的なことを信じるのが宗教な訳だから彼女の幻視や妄想自体をこの映画は否定していない。

大分ネタを割ってしまったが、語りたくなるくらい見る価値は十分ある。これぞR18指定モノの傑作だと思います。
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