破壊

ベネデッタの破壊のレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.5

「奇跡」の真偽について絶妙にぼかしつつ、本質的には「本当か嘘か」はどうでも良いというのは物凄く現実味がある。結局人間は自分に都合の良い部分を主観的、社会的に選択して捉えているんだ。
ベネデッタが人格乖離的にキリストと対話できるようになったのは、バルトロメアと愛を育む事が出来る機会と地位を手に入れる為だったのだろう。同時に「キリストの事も愛している」ベネデッタは、罪悪感を紛らわせるために無意識でキリストが自分を許してくれる妄想を行うようになる。結果的に信仰心を利用して他人だけでなく自分をも騙す事でのしあがり、自由を手にする。
動機はひたすらに純粋で、自分の欲の為に行動している。
修道院という封建的なコミュニティにいながら、決して人生の主導権を他人に握らせない。そこに強さと清々しさを感じる。信仰とは自分自身を騙すこと。稀代のペテン師は自分自身をも完璧に欺く。キリスト教への痛烈な批評を含みつつ、アート、エンタメ、悲劇、コメディ、神聖さ、露悪、皮肉、愛。その全てが同時に画面に映っているかの様なバランス。
人間の作り出すもの(歴史、宗教、物語)のベースは「嘘や欺瞞」である事を突きつけつつ、その嘘(映画)の力を信じてもいる、かなり高度センスな映画だった。
破壊

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