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ベネデッタのろくのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.8
ヴァーホーベンの映画を見ると彼には怖いものはないんじゃないかって気になる。

あのね、彼が信じているのは「自分」だけなの。全てにおいて「自分が正しい」。天上天下唯我独尊。それを地で行っているのがヴァーホーベンではないかという気になる。

この映画でもそう。結局キリストは何もしてくれない。ただただ権力だけ。そしてその権力は強大だ。僕らの力ではどうしようもない。だけどね、ヴァーホーベンはあきらめないの。どうしようもない権力でも関係ない。そこに抗う。でもその倫理は「正しい」ではないの。ただただ「自分のため」に抗うものなんだ。

まずこの映画を見てよく撮ったなぁと思ったのが第一の感想。だってそうじゃないか。キリスト教圏においてそれを否定するってまさに言葉通りで「神に対しての叛逆」なんだよ(この場合神=自明と考えていいだろう)。普通やっちゃダメなんだ。でもヴァーホーベンはそんなこと構わない。「ゆきゆきて神軍」の奥崎謙三にタブーがないようにヴァーホーベンにもタブーはない。まさかそれ撮る?関係ねえ!そんなの関係ねえ!ヴァーホーベンが小島よしお宛らに文句言っているのが目に見えるようだ(ホントか?)。

そしてアメリカで培われたエンタメシステムも健在だ。ヴァーホーベンの凄いとこって倫理としては思いっきりハリウッドに反旗を翻しているのに映画としては見事な盛り上げでどのハリウッドにも負けない映画を作りまくる(それは「ブラックブック」でも認識済みだ)。こんな映画が嫌いなわけないじゃないかって言いたくなる。最後なんかもはやドリフですよ。てててってってててっててっててってて。あのドリフのラストが見えるようだ。

そして男性諸氏お待たせしました。今回もヴァーホーベンはお下品全開です。お前らこれが見たいんだろ!そう彼は咆えます。いやこのコンプラ真っ盛りな時代にこんなのを平気で撮り「結局、これが見たいんだろ」そう言って(いや絶対言っている!)ニヤリと笑うヴァーホーベン。あんたわかっている。わかっているんだよ。

とにかく見事なエンタメを撮る癖に中身はエンタメの倫理に反旗を翻し、信じているものだけは俺だけだヴァーホーベン師匠。老いて益々盛んなり。俺はあんたについていくぜ!(最後なぜか東映イズム)。

※ヴァーホーベンの映画で脱がない女優はいないのではないか、ついついそう考えてしまう。まず女優に聞くことは「お前脱げるか?」。僕の中では鈴木則文が頭の中で再生させる。あんた心底下品だよ。でもそこがいいんじゃない!
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