翼

COLA WARS / コカ・コーラ vs.ペプシの翼のネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

※共有の為に書き下ろした記事の転用の為、前半はほぼあらすじです※


炭酸と言えばコカ・コーラ!というのは昔も今も共通言語のような存在感ですが、それに挑んだブランドがありました。その名も『ペプシ』。
プロモーション史史上最大の戦いとなったこのコーラ・ウォーズは、「弱者の戦略」ランチェスター戦略論の代表例としても語られる伝説のマーケティング戦争と言えます。

当時業界に埋もれた数多の飲料メーカーの一つであるペプシ社は、圧倒的に市場を支配するコカ・コーラ社に食い下がる手段を思案していました。
そこでペプシコーラは「色も味も第一位商品(コカ・コーラ)に似ている」という、通常ハンデとも言える商品性質を逆手にとり、両商品のパッケージを隠し銘柄を当てるゲーム「ペプシチャレンジ」をCMで大々的に打ち出すことで一躍話題となります。
会社単位なら天地ほどもある差も、消費者からすれば「見た目と味」という点で大差ない点から、
「コカコーラとペプシは同格なんだ」というイメージ戦略に繋がっていきます。
しかもペプシはコークより1缶あたり10kcal多く、甘い。
⇒一口目だけならペプシのが美味いと感じる人が多い。
だからこそこの「一口飲んであなたが好きなのはどっち?」というゲームでは優位に立てる。
自身の強みを正しく理解し、なおかつゲーム性を以て競合に勝てる。とんでもないスキーム!

結果、ペプシの猛追はコカコーラの味の秘密の調合、「マーチャンダイズ7X」を変えさせるに至ります。

この『コーラ・ウォーズ』の面白いところは、この後の「コカコーラ社の悪手」が物語ります。
新しいことを次々と打ち出すペプシ社に振り回されたコーク社は、「顧客は新しいモノを求めている」と思い込み、国民的飲料として愛された味の配合を変えるというジャッジを行います。
それは大きな誤認で、従来の味が好きな保守的な顧客から大ブーイングが起き、ついには不買運動まで発生するのです。
(インタビュイーが「たかが炭酸飲料の味が変わっただけですよw」と嘲笑するのが印象的)

コカコーラの顧客は変化など求めていなかった。
そこにペプシが「なんで味を変えるの?ペプシに敗北宣言?」と煽る大胆なマーケティングを展開し、一時的とはいえコカコーラ敗色の風説が流布します。

顧客の求めるものを見誤り、王道を貫けなかった王者の敗北と、
時代の潮流を読み、迅速な舵取りを行った弱者の勝利。
業界に埋もれたブランドが王者に土を付ける、
歴史に残るジャイアントキリングの事例と言えます!

商品を褒めるのではなく、それを選ぶ消費者を褒めるという広告界の革命の最初の事例がペプシから生まれたというのも衝撃的です。
マイケルジャクソン、マイケルJフォックス、デヴィッドボーイなど80年代の新世代を起用し「ペプシを選ぶ君はかっこいい!」と若い世代に訴えかけるペプシに対し、
コークはアメリカを象徴・代表する味としてクラシカルなファンを保守しつつ、ET、スーパーマン、ウェストサイドストーリーなどのアメリカを代表する名画に登場する戦略。
この対比の鮮やかさたるや!!両者の掲げる正義と洗練された美しき手法にため息が出ます。

世界と社会を巻き込んだ壮大過ぎるPR戦争を起こしておきながら、この映画の締めくくりにペプシの元広報部長がペプシチャレンジをした際の一言が実に的を射ています。

「同じ味だわ、何のために戦ったの?」

そうなんだよ。
だからすごいんだよ!!
翼