みっけん

僕の巡査のみっけんのネタバレレビュー・内容・結末

僕の巡査(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

セリフ、演出など、素敵だと思う点がたくさんある映画だった。のだが…ストーリーとしては、う〜ん…という感じで。
セクシュアリティで差別されることがあってはならない、というのは大大大前提。
だからこそ、トムがただ身勝手な男に見えてしまった。

当時のイギリスで、同性愛がおかれた環境は苛烈そのもの。同性のパートナーがいる人が、世間体や出世のために異性婚しなければならないケースはたくさんあっただろう。まして、「ルール」を遵守する側の警官であるトムに選択肢などない。
こんな時代でなければ、トムとパトリックは最初から二人だけでいられたかもしれない。彼らの行動には時代ゆえ、理解できる点もある。あるんだけど。
「彼のことも欲しい。でも君のことも失いたくないんだ」って、トムさんそれ、浮気男の常套句なんだが…。
「自分らしく生きたい方を選びたくても選べないから、恋人とも妻との関係も続ける。でも本当に愛してるのはパトリック」ならまだわかるけど、「彼も君のことも好きなんだ(意訳)」って……途中から、トムがただの自己愛強いわがまま人間に見えてきてしまい。挙げ句、マリオンが身を引く段階になっても「君を失いたくないんだ」とか言ってる始末。寝言は寝ていってくれ。同性愛以前に、人として誠意がないのでは。

マリオンとしては、夫が「社会規範に反することをしている」というショックもあったかもしれない。でも、それを差し引いても、パートナーが浮気相手と旅行(しかも自分が憧れている場所に)して、絵はがき送られたらそりゃバカにされた気持ちにもなるでしょう。マリオンの行動は肯定されるものではないけれど、一杯食わせてやりたい、と思うのは自然なことではないかと。

3人の誰かが一番悪いというわけではない。時代背景からくる三者三様の苦しみがあり、それを想像する余地はある。けれど、あの終わり方に納得が行くかというと…。 
結局、トムの煮えきらない態度が、パトリックとマリオンに不幸をもたらしたと感じられてしまう。 
人間、そう簡単に気持ちを割り切れないということなんだろうか。私は女性なので、マリオンに気持ちが寄ってしまうところは多分にある。
そもそも、私がこんなふうに考えられるのも、当時よりは多様性が認められている(ように見える)社会に生きているからかもしれないし。トムのこと散々言ったものの、老年の彼が、スーパーでゲイカップルを見て涙するシーンは胸に迫るものがあった。

現代のシーンでは出てこなかったマリオンの女友達。幸せに暮らしていると良いなと思った。

俳優陣の演技が素晴らしく、特にエマ・コリンが絵はがきを燃やすシーンは傑作。
みっけん

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