てる

こちらあみ子のてるのレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
3.6
原作が好きで、観るのを尻込みしていたが、評判が良いので、観賞に到った。
この作品を映像化するのは難しい。原作もそうだが、あみ子の視点で全てが語られる。
それは受け取り手によって、それぞれに感想が異なる。
あみ子が可哀想と思う人もいることだろう。彼女の親の視点や同級生の視点、様々な視点でこの作品を観ると感想が変わるのも当然だ。
私はあみ子が幸せだなと感じた。様々な状況の中で、結局のところ彼女は蔑ろにされてしまう。でも、彼女自身はあっけらかんとしていて、新たな場所で楽しいことを見つけて暮らしている。
映像化することによって、周りの人の感情が良く見えるようになって、原作とはまた違う感想を抱いた。
一番印象が変わったのはお父さんだ。原作を読んだときは、なんて酷い人間なんだと思った。まぁ、実際に子どもにはあんまり関心を抱いてないようだし、いざというときは切り離してしまう人ではあるんだけど。
でも、新たな奥さんの様子を鑑みるに、そういう決断をしたのもやむを得ないと思う部分もある。問題ばかり起こすあみ子を煩わしく思えてしまうのもわかる。断腸の思いであみ子を切り離すという決断をしたんだと思う。
とはいえ、それはあみ子側の視点に立つとあまりにも残酷なことだ。去っていく車を見ているあみ子の表情はさほど変わらないようだったけど、悲しげに見えた。
もうひとつ印象に残っているのが、後半のあみ子のセリフ。
「なんでみんな教えてくれないんじゃろ」
周りの人はあみ子に説明することを諦めている。どうせ説明してもわからない。そう思ってしまう。
でも、もしかしたら説明してあげればわかったかもしれない。彼女がこんな境遇になっていなかったかもしれない。
そのセリフは、あみ子の悲鳴のようにも聞こえた。何にも見えていないし、自分の世界で生きてる彼女でも寂しいと感じるし、悲しいと感じるんだなっと。人間らしい感情がそこには感じられて、胸が締め付けられた。
原作とはまた違った良さがあって、その良さを多くの人が高く評価していることが嬉しく思える。
何度も観たい作品ではないけど、何度観ても違った良さを見つけられる作品なんだと思う。また、観れることがあれば観てみようかな。
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