てっちゃん

こちらあみ子のてっちゃんのレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
4.5
とてもとても観たかった本作。
公開当時に劇場へ駆けつけることができず、配信にきたら観ようかなっと思っていた矢先に、別の劇場で上映されることが決定したので、とても楽しみにしていたのです。

なんでそんなに楽しみにしていたかって?
それは本作音楽を手掛けている青葉市子さんの大ファンだからです。
音楽目当てで映画を観に行くのってかなり珍しいかも。

青葉市子さんが如何にして素晴らしいお方なのかは、ここでは割愛しますが、エンディング曲"もしもし"が流れだし、その歌詞を聴いていたら、不思議と涙が込み上げてきたのです。

お前のことなんてどうでもええわってことで感想です。

2022年度の宇多丸さんシネマランキングベスト1が本作という情報もあったので、かなりハードルを上げて鑑賞しました。

結果は、ものすごく心に刺さる作品でした。
一緒に観に行ってくれた方と、いつも映画終わりは感想をあれこれ言い合うのですが、お互いに言葉が出てこず、言葉にするのに時間が掛かりました。
振り絞って言葉を出そうとしたら、涙声になってしまう始末。
帰り道には"もしもし"を聴いていました。
この瞬間に自分の中で生きている作品となっていました。

"もしもし"と本作のあみ子に対する距離感がなんか似ているなと思っていたら、森井監督さんと青葉市子さんの対談をしている記事を教えてもらい読ませて頂きました。

”とある方”視線で本作が描かれていることが書いており、しかもそれがお互いに共鳴し合う感じで、作品がつくられていたことを知り、自分の距離感の正体を知ることができて、より本作を好きになりました。
この対談が非常に面白く、お互いの"あみ子"を話し合っているのが印象に残りましたので、是非併せて読むことをおすすめします。

おいおいパンフはどうだったんだ?という声が聞こえてきそうですが、本作のパンフの完成度と充実度はものすごい域にまで達しています。

常々言っている製作側の作品愛はパンフで読み取れると思っているのですが、ものすごく愛を感じるパンフでした。
脚本原稿?みたいなのも載っているのですが、本作ではカットされた小話もあり、そこを読むとより感情が読み取れるので、本作をお気に召した方は必読ではないでしょうか。

さて、本作を見て私はこちら側とあちら側の境界を描いている作品だなと感じました。

こちら側にあみ子はいて、あちら側はあみ子以外の人物たちの世界、境界を前述した”とある方”だと思っていました。

でもそれって本当なんだろうか?と思いました。
本作は”とある方”の人物目線で描かれていること、あみ子の性格や思考を考えると、あみ子たちみんながこちら側、あちら側はあみ子が怖い、嫌だ、苦手だ、なんでだろう?でもなにが違うのか分からないと思う世界だと感じたのです。

「こちらあみ子、こちらあみ子、、応答せよ」とあみ子は言います。
あみ子はこちら側にいます。なのに応答しようとする者は次第に少なくなっていきます。
でもあみ子は問い掛け続けます。

私は勝手にあみ子を”あちら側”、自分を”こちら側”の目線で見ていたのです。
それも無意識で。
その無意識こそが、本作で描かれる境界ではないでしょうか。
その境界線を壊そうとするシーンが本作では登場します。
応答しようとする人物が登場します。その瞬間を見逃さないで欲しいです。
”対話”が成立する瞬間があります。その瞬間がとてもきれいです。

あみ子は"おばけなんてないさ!、、"と歌い続けます。
こちら側だと認識していたものが、そうでないカタチに変容しようと感じたのではないでしょうか。
それを認めたくないから、歌っていたのではないでしょうか。
でもあみ子は最後には歌うのをやめます。
歌うのをやめた理由があるからです。

本作は決して、明るい気持ちで観られるような作品ではありません。
大沢一菜さん演じる、あみ子があみ子としかいいようがないです(原作未読なのですが直観的に感じたことです)。
あみ子がここにいる!って感じです(パンフで大沢一菜さんのあみ子っぷりの話も載っているので面白いです)。

だから余計にあみ子をダイレクト感じてしまい、あみ子の人生の断片を共有することになるので、とてつもないリアルを突きつけられます。

好きなシーンは、前述した境界線を壊そうとするシーンと、あみ子が外で病院から帰ってくる母親を待ち、カメラがあみ子の汗だくになった顔を映すシーンです。
この瞬間がとてもきれいなんです。
この無意識の瞬間がすごくきれいです。

言うまでもないですが、音楽が本当にいいんです。
青葉市子さんのセンスの感性が本作の魅力をさらに増してくれています。
不思議な音色、印象的な水の音、"もしもし"の視点、、これ以上ないくらいに作品に嵌っているのです。

あみ子はこの先とうなるんだろう?と考えてしまいます。
でも本作を観たら、あみ子はあみ子であり、あみ子のままでいて欲しいし、あみ子の応答に応える声があると信じたくなります。
自分の中にいるあみ子を忘れてはいけないなと思った作品でした。
てっちゃん

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