しの

ナイブズ・アウト:グラス・オニオンのしののレビュー・感想・評価

3.6
ダニエル・クレイグが「残りの人生これやっていきたい」と言うのも納得のストレス解消リゾート映画。もはやミステリーの語り口を利用した別の何かで、時事性あるメッセージの痛快さに前作より比重を置いている。気取ってるが中身のない空虚さ。罵倒の連呼に笑う。

Netflixとの契約になって増えた予算を効果的に利用しているのは巧い。豪華さが目に楽しいというのはあるが、それが「何か凄いことが起きそうな舞台で何も凄いことが起きない空虚さ」の実感に繋がっていくのが重要。ガラスで筒抜けというモチーフが何度も登場するのも巧い。

大金持ちをバカにする話は良くあるが、そこにたかる人々も描いていて、だからこそ「全員に動機がある」になるのが本作ならではの語り口。彼らのしょうもなさに合わせるように作品のIQもどんどん下がっていき、最終的にアホ! クソバカ! の連呼にガラスがバリーンでドカーン……からのエンドクレジットでかかる曲はたしかに痛快で、そこから着想を得ているだけある。あれも相当皮肉な曲だし。

このIQ低下展開はあえてやっているので良いとして、個人的に引っかかるのはあの痛快なオチが本当に「勝ち」になるのか疑問が湧いてしまう点。正直、ミステリーの換骨奪胎としては前作の方がスマートだった。今回は痛快さに振りすぎで、よく考えると何で誰か1人が彼女を殺したことにしてるの? とか、この時点でこのキャラクターは何がしたかったの? とか、だいぶ脇が甘くなっている。終盤の手のひら返しもちょっと不自然だし、手のひら返しの証言でどうとでもなる、というのは何だか締まらない。ちょっと人物たちをアホに描きすぎでドラマがなかった。

とはいえ、まさにジャンルを俯瞰し現代的にアップデートする破壊をやり続けてきたライアン・ジョンソンらしい作品になっていて、今回は自己言及的ですらある。喉に謎の消毒プシュッ! でマスクを外しても良いことにするという、『LOOPER/ルーパー』の「タイムトラベルの話はしたくない」を思い出す割り切りっぷりも健在。流石にこれは一回限りしか成立しない「破壊」だとは思うし、もう同じ手は使えないが、シリーズの今後が楽しみにはなった。
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