幽斎

マーベラスの幽斎のレビュー・感想・評価

マーベラス(2021年製作の映画)
3.8
「007/カジノ・ロワイヤル」Martin Campbell監督が「M:I Ⅲ」「ダイ・ハード4.0」Maggie Q主演で暗殺者の壮絶なリベンジをスタイリッシュに描く豪華スター共演のアクション・スリラー。久し振りのTOHOシネマズ二条で鑑賞。

原題「The Protégé」弟子、アメリカのニュアンスでは年上で経験豊富且つ影響力を及ぼす人物に支えられてる人。うん、合ってる(笑)。しかし、邦題のマーベラスは意味不明。配給元REGENTSは英語に無知だと断言したい。マーベラスの語源はラテン語Mirabilia「奇跡的に素晴らしいさま」タイトルから既に迷走が伺える。

「007」愛する私からすればCampbell監督は恩人に値する功績を残した。MGMとソニーとの国際裁判でシリーズ最長の空白期間に及び、私のベスト・ボンドTimothy Daltonは僅か2作で降板。2度目の大きな危機(最初はSean Connery降板)「007/ゴールデンアイ」見事に立ち直らせた。因みにLiam Neesonが断り、Pierce Brosnanが選ばれた。MGMが破産に陥ると、敵のソニーが資本参加してBrosnanに退職勧奨、Ewan McGregorを希望したが断られ、金髪で背が普通で目が青い異色のDaniel Craigが選ばれ、再びCampbell監督が「007/カジノ・ロワイヤル」シリーズ最高成績で再び見事に立ち直らせた。

しかし、2011年「グリーン・ランタン」歴史的大惨敗でCampbell監督の居場所が一瞬で消えた。アメコミでも伝説の黒歴史はRyan Reynoldsのキャリアにも及んだ。Campbell監督の良さは俳優ファーストの演出力。監督の「色」を消す高度な職人に徹するスタンス。痛快さと爽快さを失わない演出力は誰でも出せるモノでは無い。

Maggie Q 43歳。香港女優と誤解されるが母親はベトナム人。資生堂CMに出演した事も有るが「M:I Ⅲ」オーディションでTom Cruiseに気に入られ、アジアを代表するアクション・スターに成長。彼女に敬意を表してベトナムの都市ダナンで撮影。年齢を感じさせない静から動へのダイナミズムなアクションは健在。彼女の認知度に貢献したTVシリーズ「NIKITA / ニキータ」Luc Bessonとのセクハラ疑惑は黙って於こう(笑)。

「ジョン・ウィック製作スタジオ」←制作と製作の違いを理解してない典型例。ジョン・ウィックを制作したのはSummit Entertainment。本作はMillennium Media。本作を北米で「配給」したのはLionsgate。ライオンズゲートの子会社はSummitだが、まさか配給元REGENTSが作品を立案するスタジオと、映画館へ売る配給の違いが分らない訳が無い。嘘スレスレのプロモーションから既に迷走が伺える(2度目)。※制作→作品を創作して作った人、製作→資金調達や人事権のある人、基本中の基本です。

Millenniumはハリウッドで最も長い歴史を持つ独立系スタジオ。前身Cannon Groupは、Chuck Norris「デルタ・フォース」、私の好きなSFスリラー「スペースバンパイア」、有名なのは「ランボー/最後の戦場」「エクスペンダブルズ」私の苦手な汗臭いドンパチ映画。中国資本が入り迷走したが、最近は全部レビュー済「アウトポスト」「テスラ エジソンが恐れた天才」「ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード」「ブラックバード 家族が家族であるうちに」「ティル・デス」「JOLT/ジョルト」何だ好きじゃない?(笑)。

他にもMichael Keaton、Samuel L. Jackson、Robert Patrickと豪華スター共演に偽り無し。脳筋ミレニアム制作でCampbell監督。京都で例えると近江牛のすき焼き並みに美味しくない訳が無い。しかし、北米初登場7位と惨敗、何故か?答えは脚本。アクションとは言えスクリプトは命、書いたのは「イコライザー」Richard Wenk。「ジョン・ウィック」同じ年に公開されたが「イコライザー」コッチが元ネタと言われる傑作アクション・スリラー。何でコウ為るの?。

当初は「ANA」(全日空じゃ無い方)タイトルで製作する予定が、レビュー済「ANNA/アナ」と混同すると変更。主演は鞏 俐、中国人コン・リーだが、シンガポールの富豪と結婚して中国籍を捨てた彼女が断ると、焦ったミレニアムは主演を変え「The Asset」と言うタイトルで、自ら経営するルーマニアのブカレストのスタジオで撮影。しかし、完成しても買い手が付かず何とかライオンズゲートが「The Protégé」改題して買い取った。公開前から迷走が伺える(3度目)。

私のロジックでは製作総指揮の人数が多くなる程、作品のフォーカスが「ボケる」理論が有る。作品を立案した「制作」よりも製作総指揮は予算を管理する強い権限が有る。本作は製作補も加えると30人以上が名を連ねる。ミレニアムは、スターを継ぎ足して予算が膨らんで、色んな人の色んなアイデアを盛り込む事で、赤字に為らぬよう腐心したが、スポンサーが口を挟み過ぎるとロクな結末を迎えない典型例と化してしまった。

Campbell監督の手腕を以ってすれば、肝心のアクション・シークエンスでメロディ・ラインさえ整えば、名神高速並みにスムーズに描ける。しかし、製作総指揮が介入して凸凹だらけの府道ではキャストの存在感に頼るしかない。脚本Wenkのテイストが残されたのが文芸趣味。「イコライザー」Denzel Washingtonも読書家、亡き妻が挑戦した「読むべき100冊」が日課。本作もJohn James Audubon著「アメリカの鳥類」現存する初版は世界に一冊のみ、マニアックなヴィンテージの会話が描かれる。製作総指揮に「汚される」前は、もっとインテリジェンスな脚本だったと推測出来る。

Maggieは脊椎を痛め、近年はレビュー済「ファンタジー・アイランド」「デス・オブ・ミー」ルックスを活かした静かな役が多かった。ソレでもベトナム・ロケをしてくれた制作陣の為に、渾身のアクションを披露したのは何か切ない。しかし、劇場でトンデモナイものを見せられた。主演は紛れも無くMaggieなのに、クレジットのフロントはKeaton。祖国ベトナムで大ブーイング!、ソラそうよ(阪神岡田監督風(笑)。製作総指揮が見たいからと、Maggieのセクシャル・ケミストリーなど観たくもない。ベトナム戦争で感動話に仕立てる辺り、一体誰の為の作品なのか迷走が伺える(4度目)。

クオリティが平凡で黒髪のMaggieちゃんが、どうしても余貴美子にしか見えない(笑)。
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