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スティルウォーターのtakeman75のレビュー・感想・評価

スティルウォーター(2021年製作の映画)
4.5
フランスの留学先で殺人罪により収監された娘を救うために、無職で粗野なアメリカ人の父が誰の助けも借りることなく「自力」で、彼女の冤罪を証明する証人を探し求める姿を描いた、これは想像を遥かに超えて骨太な余韻を観る者に残すサスペンスドラマの傑作。

フランス語や海外の文化に一切の関心を持つこともなく、訪れた地でも周囲と心を通わせる事を拒否し、全てを自分だけの独断で解決しようと突き進む白人労働者を演じたマット・デイモンの演技が、本当に素晴らしい。前半は黙々と事件の手掛かりを求めてマルセイユの土地を歩き続ける、彼の後ろ姿が執拗に映され続けるが、地方の肉体労働者らしい筋肉と共に、何か贖う事ができない「罪」を背負っていることを感じさせる背中の気配が、本作の魅力を支える大きな「地盤」になっているのは間違いない。

近年なら10エピソード位を費やすドラマシリーズで扱われそうな題材を敢えて2時間15分の映画として凝縮し、観る者を息付く間もなく深い「闇の奥」へと引き込む展開は、個人的にはイーストウッド監督の「ミスティック・リバー」を想起したりしたが、実は本作で描かれる殺人事件は欧米では知らない人がいない「アマンダ・ノックス事件」をベースにしている(映画本編では事件が起きる国も内容も全く違うが)との事で、事前に概要だけでも調べていくと呑み込みやすいかも。

全体的に決して派手な見せ場が連続する内容ではないので、観る人によっては淡々とした展開に多少辛抱を要するかも知れないが、深い陰影と繊細な色彩に富んだ撮影と、幾重にも重ねられた登場人物の心情描写など、あらゆる意味で映画を「読む」喜びを、これほど味合わせてくれる作品も近年稀では。これこそ正に「大人」が堪能するべき、映画の悦楽。
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