ねこねここねこ

スティルウォーターのねこねここねこのネタバレレビュー・内容・結末

スティルウォーター(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

何というか、高い評価は与えたいけど後味はスッキリしない映画だった。

娘アリソンが遠いマルセイユで刑務所に入っていて面会に行く父ビル。
泊まったホテルで偶然居合わせたヴィルジニーとマヤという母娘。
自分は無実だと主張する娘のためにフランス語も話せないまま奔走するビルはアリソンがあいつこそ真犯人だと言うアキムを探し回る。ビルを放っておけずに協力するヴィルジニー。

TSUTAYAで何を観ようか迷っていた時、大好きなマッドデイモン主演のこの作品を見つけ、ストーリーは大胆なアクションもあってテンポの早いサスペンス映画だと思ってレンタルしたが全然違ってヒューマンドラマだった。それでもどんどん引き込まれて観てしまったけど。

どうやらアリソンは同性愛者で、同居していたリナを無惨に殺した罪で収監されているよう。その事件は5年前、マスコミでセンセーショナルに報道されたため、ヴィルジニーも記憶に残っていたほど。
このアリソンが終始父親であるビルを小馬鹿にしてる感じがなんかイヤだった。高校を中退し、油田や建設現場で汗だくになって働きながら娘を大学までやるのは並大抵ではないはず。もちろん日本のように全て親がかりではなく、自分もバイトとかして学費を稼ぐのがアメリカだけど、それでも親は大変だったはず。現に大学教授はアリソンを裕福な家庭の娘と思っているほど。

母親の自殺の理由はわからないし、以前はアルコールに頼っていたのかもしれないけど、今はアリソンを救うために奮闘している父。しかしアリソンは4ヶ月に1度の保釈日に、ヴィルジニーに父親は何をしても失敗ばかりのダメな人間だと言う。
自分のために言葉もわからない国で奮闘している父を見ながら。

まぁ、無謀ともいえるアキム探しは団地内でボコボコにされて、アキムに逃げられて終わり、そのことでアリソンに散々罵られる。

その後ヴィルジニーとマヤとの同居生活が始まり、その中で自然に家族のように暮らし始めたビル。ただの同居人から次第にヴィルジニーの恋人へと変化しながら平和に過ぎてゆく日々。
マヤが大好きなサッカーチームの試合のチケットをプレゼントし、まるで父と娘のように二人でサッカー観戦へ。このまま幸せに過ぎて欲しかったのに、一度は見失ってしまったアキムの姿をサッカー場で見かけてしまい、娘の無実を証明しようとアキムの後をつけて拉致監禁してしまう。眠ったマヤを乗せた車で。
隠していたはずがマヤに地下室のアキムの存在について聞かれ、内緒にして欲しいと頼むビル。
しかしアキムのカタコトの英語で、実はアリソンこそが父親から留学前にプレゼントされた地元オクラホマスティルウォーターの文字をかたどった金のネックレスをあげるから、リナをいなくさせてと依頼していたのだ。それを聞いて愕然とするビル。確かにアリソンにプレゼントしたネックレスをアリソンはしていないし、引き取った荷物の中にもなかった…。
愕然とするビル。一方アキムのDNAと殺人現場のDNAが一致したようだが同時に警察はビルがアキムを地下室に監禁していると気づいてビルの元に訪れる。
おそらくヴィルジニーがいち早く気づいてアキムを逃がしたのだろう。地下室にアキムはいない。そしてビルを守りたいマヤは警察に嘘をつく。

こうして母娘は否応なしにビルの拉致監禁という重罪に巻き込まれて嘘をつかなくてはならない羽目に…。
そうしてヴィルジニーは「すぐに荷物をまとめて出て行って」とビルを追い出す。
母親なら自分はともかく娘まで巻き込んでいたこと、娘に嘘をつかせたことは許せるはずもない。
ビルが必死でアリソンを助けようとするのと同様、ヴィルジニーだってマヤを守りたいに決まっている。

ビルが別れを告げに行ってもタブレットばかり見て返事をしないマヤ。それでもビルが大好きだったマヤに最後の別れを言う機会を与えるヴィルジニー。
ビルにしがみついて泣くマヤにこちらも涙なしではいられない。

こうして家族になれたかもしれないかけがえのない母娘を失ったビルはアリソンを連れ戻すことが出来てアメリカに帰国。地元ではアリソンの歓迎会が盛大に開かれる。
そのお祝い騒ぎの中で浮かない表情のビル。
アリソンにネックレスのことを切り出すが…。

この娘はダメだと思う。父親の人生を台無しにして深い底に沈めたとはわかってない。表面ではごめんねと言うが何もわからないから戻りたいかなどと聞けるのだと思う。父親が自分のためにどれほど働き、必死になってアキムを探し、犯罪まで犯し、そしてそのために大切な人達を失ったことをわかっていたら、ビルがマルセイユに戻って二人に会うことなどできるはずもないとわかるだろうから。

無実だと信じていた娘が実はアキムにリナ殺しを自分のあげたネックレスを報酬として使って頼んでいた。娘はまさか殺すなんて思ってなかった、追い出すだけだと思ったと言い訳するが、結局はアリソンのせいでリナは死んだのだ。それは自分が1番わかってるはずなのに自分は無実だ、アキムを捕まえてと懇願するような人間だ。
この先もそういう生き方なんだろう。
この娘の救出のためにビルが支払った代償は大き過ぎる。それはビルだけではなくヴィルジニーとマヤの母娘も同様だろう。
どんなに好きでも許せないことはある。

娘の真実を知り、二人を失ったビルにとって故郷の景色はまるで見たこともないようなものとなり、人生は冷酷だと呟く。

そう、ビルはやっぱり失敗ばかりするダメな人間なのかもしれない。娘を助けたい一心で大きな過ちを犯したのだから。底知れぬ喪失感を抱えてこれから先歩む人生は冷酷だ。二人と知り合う以前には戻れない。そして人生の景色もまるで違うものになってしまった。良い方へではなく…。

なんだか切ない、そしてマヤが可愛すぎて切なすぎる。