かじドゥンドゥン

スティルウォーターのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

スティルウォーター(2021年製作の映画)
3.5
妻を自殺で亡くし、石油採掘員として生きて来た無骨なアメリカ人の男ビルが、フランス・マルセイユに留学中ルームメイトを殺害したとしてすでに4年服役している娘アリソンと面会。彼女は、父との間に葛藤をかかえており、彼を信用しておらず、彼が読めないフランス語でつづった弁護士宛の手紙を父にことづける。

ビルは、意志疎通もままならない国で、娘から預かった手紙をどうにか弁護士に渡すものの、真犯人の存在と自分の無罪、再審の請求を訴えているらしい娘の手紙は弁護士にあえなく突き返される。手紙の内容を知ったビルは、けなげにも娘の無罪を信じ、彼女には弁護士が動いていると偽って希望を持たせたまま、フランスで独自捜査を進める。

治安の悪いマルセイユで、フランス語もできない不器用な男の素人捜査など、当然行き詰まる。しかし他方、フランス滞在中に知り合い、意気投合し、同居まではじめた女優とその娘との関係は徐々に深まり、新たな家庭生活の兆しが見え始めてもいる。服役中のアリソンが、父の嘘を知り、一度は激昂したものの、やがて落ち着きを取り戻し、イスラムの教えから習い知ったという運命甘受の態度を取り始めたことで、このままこの件は妥協による平穏な生活に移行するかと思われた。

ところが、ビルが少女マヤをサッカーの試合に連れて行った或る日、彼は偶然、アリソンが真犯人だと主張している不良青年を発見。マヤが帰りの車内で眠っている隙を利用して、青年を襲撃し、自宅アパートの地下室に監禁、彼の頭髪をサンプルに闇ルートでDNA鑑定を依頼する。

結果、アリソンは釈放され、父娘は地元民からの大々的な歓迎とともに帰郷するが、違法な証拠取得手段であるビルの監禁事件をきっかけに、パートナーの信頼は失墜。フランスでのビルの新家族は破綻する。しかも、青年は監禁中、アリソンに殺害を依頼されたという信憑性のある発言をしており、ビルは父としてそれを聞かなかったことにしたが、後にやはりアリソンが、自分の罪を父にこっそり打明ける。同性愛のパートナーでもあったルームメイトの女性のたび重なる浮気に耐えかねず、青年を金で買収して殺害を依頼したのだ、と。

アリソンの罪は露顕しないが、だからこそ重い良心の呵責を背負って、父娘は生きてくことになった。皮肉な仕方であらためて取り結ばれた親子の絆。

マルセイユの土地柄や、中東系移民およびアメリカ人に対するフランス人のバイアスのかかった見方が、良く知れる作品。