こつぶライダー

スティルウォーターのこつぶライダーのレビュー・感想・評価

スティルウォーター(2021年製作の映画)
4.5
"人生は残酷だ"

様々な役をこなしてきたマット・デイモンが、今作で演じるのは服役中の娘の無実を晴らすため奮起する父親!
それだけだとヒーローパパを想像するのだが、現実はそう甘くない。
彼には娘から煙たがられる過去があり、また今も同じように空回りする…。

いやぁ、同じシングルファーザーとしてメンタルにくるものが多過ぎた。
途中から胃が痛くなる程に物語にのめり込みましたよ。

タイトルの『スティルウォーター』というのはアメリカのオクラホマ州の田舎町にある地名。
そこに住む男が主人公なのはわかるが、なぜタイトルなのか、、、
これが分かったとき、
「うわぁぁぁああー!!!!!!!!」となる。

観終えた際にカタルシスは得られますし、じんわりと重くのしかかってくるものがありました。

スティルウォーター、他にも意味があるようで、調べてみると

"水道水" "溜まり水"

という意味らしい。
ふむふむ、なるほど。溜まり水ね…。

ビル(マット・デイモン)が話していた生い立ちや、娘アリソン(アビゲイル・ブレスリン)の言動なんかからも読み解ける。
スティルウォーター、、、奥深い。

この映画の妙なところは回想シーンが全く出てこないところ。
あくまでも「時間は未来に向かってしか進まない」「過去は戻ってこない」という視点で描かれている。

そう考えると、やはり人生後ろ向きになるのではなく、未来を想像しながら生きる方が良いというメッセージを感じ取りました。

ビルもアリソンも、行動としては正しくなかったかもしれない。
それで、結果的にマルセイユでの暮らしを無くしてしまった。

閉鎖的な街に見えたマルセイユでの光であったヴィルジニーとマヤとの暮らし。
暗闇の中で安らげる場所を見つけたのも束の間、自らの手で幸せを手放してしまった。
(少なくとも実娘アリソンよりもマヤとの関係性は良好だった)

結果的に良かったか・悪かったか、そんなこと簡単には言い表せないものだ。
人生はそんなに単純ではない。
少なくとも、マルセイユでの幸せは失ったし、その代わりに娘と共にスティルウォーターへ戻ることが出来たわけだ。その事実は変わらない。

ビルが言った
「俺には全て違って見える」

マルセイユでの幸せを経験してしまったからこそ、地元スティルウォーターは昔のままの良いイメージではなくなってしまったという複雑さ。じんわりと染みました。

とにかく全編に渡って脚本が秀逸。
やや長めの映画だが、それを2倍3倍さらに深く味わえる作品でした。
途中までは、胸糞悪ぃ〜って感覚がありましたが、むしろ胸が締め付けられるような切なさややるせなさ、そんな感情が湧き上がってきて、静かなる名作だと思いました。

最後に、、、
アビゲイル・ブレスリンは伊藤沙莉さんみたい。同じ子役出で、ハスキーな感じ。雰囲気が似ている。
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