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雨とあなたの物語のmaverickのレビュー・感想・評価

雨とあなたの物語(2021年製作の映画)
4.7
2021年の韓国映画。『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』のチョン・ウヒと、『ミッドナイト・ランナー』のカン・ハヌル共演作。


好きな女優でもあるチョン・ウヒの主演作ということで楽しみだったが、期待値超えてのめちゃくちゃ良作だった。少女漫画っぽい雰囲気で人は選ぶかもしれないが、自分はめちゃ刺さった。『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』『哭声/コクソン』『悪の偶像』などで強烈な印象を残すチョン・ウヒが、本作では等身大のごく普通な女性を演じているのがとても良い。病気の姉を献身的に支えるヒロインで、素朴な可愛らしさに溢れている。優しく穏やかな雰囲気に包まれた作品性で、作りはとても丁寧。音楽も心地よく、世界観にどっぷりと浸れる。ロマンチックな描写が美しく、青春を感じさせる微笑ましいラブストーリー。そんな中にも人生のやるせなさがリアルに落とし込まれており、誰もが共感してしまうような物語となっている。

序盤から幾度も涙する。何気ないシーンに思わずぐっときてしまうのだ。本作の主人公は二浪中の浪人生。ヒロインは母親が営む古本屋で働く女性。二人とも夢がなく、社会的に言えば負け組にあたる。そんな二人が作中で何度も感じるやるせない気持ち。それが鑑賞する自分達の感情を刺激する。二人だけでなく、作中で登場する人物らは人生上手くいっていない。現実の人生でも上手くいかないことの方が多く、そういう感情を多くの人が持っているはずだ。好きな相手と結ばれなかったり、仕事や人間関係で上手くいかなかったり。夢が持てず、ただ漠然と生きる毎日に面白味を持てない人もいると思う。今は幸せでも過去に経験したやるせない気持ちが作中の人物と重なり、「この気持ち分かる」と共感してしまう。そんな人生の中にも、生きていることが素晴らしいと思える幸せを感じる出来事が幾度となくある。この物語もまさにそうで、やるせなさと幸せとの繰り返しなのだ。切なさと感動と、そのどちらの表現もとてもリアルで自然と涙がこぼれる。監督と演者の高い表現力がそれを生み出している。

冴えない主人公を演じたカン・ハヌル。浪人生時代は落ち着きがなく、大人になった後は落ち着いた寡黙さとで演じ分けていた。主人公にまとわりつく、ちょっとがさつな女性を演じたカン・ソラも演じ分けが見事だった。若い時と大人になった後とで雰囲気が大きく違う。二人とも見た目の雰囲気だけでなく、人物の中にある気持ちの変化まで表している。それがこの物語をリアルに感じさせる要因になっており、自分達の人生と重ねて見てしまうんだよね。カン・ソラが演じたスジンを思えば泣けてしまう。人を好きになるって、素敵だけど苦しくて。苦しいけど素敵なんだよね。

ヒロイン役のチョン・ウヒは献身的に病気の姉を支えている。あっけらかんとしているように見えて、細かい表情の変化で感情を表す演技力がさすがだった。姉のふりをして手紙の返事を書き続けるが、その行方には最後まで目が離せない。病気の姉を演じたイ・ソルという女優も演技上手かった。涙なしには観れない話。悲劇ものにありがちな過剰な演出がないのも本作の良さだ。

2000年代前半が舞台で、それを表現したノスタルジーな部分も見所。アジア圏の人々にとって、レスリー・チャンはやはり偉大だったのを再認識させられた。


『雨とあなたの物語』という邦題は作品性からちょっとずれていて残念。『Waiting for Rain』の方がしっくりくる。梅雨の時期など、雨の日の鑑賞にお勧めしたい作品だ。
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