KnightsofOdessa

おひとりさま族のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

おひとりさま族(2021年製作の映画)
3.0
[都市における孤独な人々の肖像] 60点

ユ・ジナはクレジットカード会社のコールセンターで働くトップ社員である。しかし、マニュアル通りの返答をする仕事時間以外は誰とも喋らず、常にスマホ片手に動画を観ていて、昼食もぼっちで隣人付き合いもない。題名"孤独な者たち"が表すのは、現代社会に暮らす孤独な人々のことであり、ジナはその代表なのだ。しかし、興味深いのは、ジナが全くSNSを使わない人物だということだろう。この手の現代社会批評では、中途半端にSNSが登場して残念な印象を残すことが多いのだが、今回はばっさり切り捨てたようだ。少なくとも私の周りにはそういった人はいないんだが、切り捨てたことで完全に孤独な人間が誕生している。

そんな彼女の起伏のない日常生活は三つの非日常によってかき乱される。一つ目は父親の存在である。17年前に両親は離婚したが、ジナが就職して家を出てから復縁し、母親が亡くなったときに傍に居たのは介護されていた父親だった。今では近くの教会に入り浸り、真面目に生きているようだが、ジナにはそれが認められない。二つ目は新人スジンの存在である。ジナは教育係に任命されるが、それを望んだわけでもなければ、どうすればいいかも分からない。加えて、スジンはジナと親しくなろうと昼食に付いてきたり、迷惑客に謝ろうとしなかったりとジナのペースを乱していく。研修中に掛かってきた電話に対する応答で、両者の違いが明白になるシーンがある。"2002年にタイムトラベルがしたい"という男性に対して、ジナはマニュアル通りに"はいそうですね"としか応えないが、スジンは"どうして2002年なんですか?"と応え、それが人々が繋がり合っていた日韓ワールドカップの年であることを知る。これは人と関わりを持たないようにしているジナの状況を示す象徴的なエピソードである。三つ目はマンションの廊下でよくすれ違っていた隣人が孤独死していたことである。これは自分にも直結する問題でありながら、父親がいなければ母親も孤独死していたかもしれないという鬱屈した感情を引き出す問題となってジナの前に立ちはだかる。

本作品はシンプルなテーマ性に対して色々とごちゃごちゃしている印象を受ける。不必要に掘り下げる部分などが多すぎるのだ。ただ、父親に対してそれなりの繋がりを維持しつつ"勝手に生きててください"とするラストは好ましい。
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