空海花

ディア・エヴァン・ハンセンの空海花のレビュー・感想・評価

3.5
トニー賞6部門、グラミー賞、エミー賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカルの映画化。

主人公エヴァン・ハンセンは学校に友達も居なく、親にも心を開けずにいる。
セラピストのすすめで書いていた“Dear Evan Hansen”から始まる自分宛の手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう─
エヴァン・ハンセンを演じるのはミュージカル版でも主役を務めたベン・プラット。
監督はスティーヴン・チョボスキー。
音楽は『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』などのベンジ・パセック、ジャスティン・ポールが担当。
第34回東京国際映画祭クロージング作品。

『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』は一旦置いておいた方が良いかもしれない。
それよりも『ウォールフラワー』『ワンダー 君は太陽』の監督であることを思い出した方が良い気がする。

それぞれモノローグを語るようなストーリー展開。
心情を歌で表現しようという試みという意味で意欲作。
代わりに群舞やみんなで何かを成し遂げたり、歌い上げるような高揚感とは別の物。
他のミュージカルのように聴いている間にも変化がある。聴き入っていると…の落とし穴があるかも。
それでもベン・プラットの繊細な演技と歌唱が最も良い点だと思う。
しかし初めに感じた違和感は結構長く引きずった。
楽曲は良いのだが、歌は意外と少なくて
あ、ここでいくんだ、みたいなジレンマとか…
モノローグなのは納得するとして、ストーリーにハーモニーが足りないというか。
して、小さな嘘の行く末は─


以下内容に触れるのでネタバレ注意⚠️


ストーリーはコナーが手紙を持ったまま亡くなってしまうことで、思いもよらぬ方向へ向かう。
両親はエヴァンをコナーの親友だと信じ、エヴァンは話を合わせてしまう。
嘘はまだいい。まだ高校生なのだし。あの場ならあり得る。
けれども亡くなった人の思いは?
コナーの死があまりにも隠されすぎているのがどうしても気になった。

エヴァンが語るコナーの考えていたこと、思い出、メッセージは
すべてエヴァンのことであり
エヴァン自身への語りである。
エヴァンが骨折した本当の理由、
おそらくコナーに彼自身を投影していただろう、彼にとっては同じだった。
だから嘘から続く言葉が出て来た。
それくらい彼の闇は実は深かった。
これらすべてが冒頭の“Dear Evan Hansen”から続いている、
彼自身への癒しのメッセージなのである。
究極の癒しとは“自らが癒す”ことなのだ。
だから彼は嘘を公表しても、コナーの母親が心配するようなことにはならず、
孤立しても自分の足で立っていられた。
それ自体は素晴らしいことだし、この物語の要だと思う。

それでも─
両親や妹の思いは
何より本人の思いは、亡くなった意味は、と考えるとやりきれなくなる。

私も若い頃友人を亡くしたことがある。
私の場合は実際にやりとりしたメールや着信履歴もご家族の知るところとなったし、この話のようにその後の交流もあった。
自殺願望があることは知っていたから
驚きよりも当時は当然自分を責めた。
やはり鬱病で薬を色々飲んでいた。
よくわからないから本を読んで調べたが役には立たなかった。
彼も普通に働いていたし、勉強もしていた。そんな人は、若くても見えなくてもたくさんいる。
エンディングでそういう落としどころなんだと思い、納得はできた。
でも喉の小骨みたいにチクチクとする。
この評価はたぶんこの体験とは関係ないと思う。
孤独に関しては表情ばかりで、ストーリーとして描けていたかというと疑問。


2021レビュー#204
2021鑑賞No.444/劇場鑑賞#90
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