近本光司

理大囲城の近本光司のレビュー・感想・評価

理大囲城(2020年製作の映画)
4.5
2019年の香港。複数の映像作家からなる匿名のグループが、香港の理大に立て篭もった動乱の一部始終を収めた映像を観ながら、わたしの脳裏には四方田の著した書物で知った「敗者は映像を持たない」という大島渚のテーゼが繰り返し去来していた。その後の歴史の成り行きから、わたしたちはあの学生たちの決死の闘争が完全なる敗北で終わってしまったことを知っている。紛れもなく「敗者の映像」である本作は辛うじて勝者から横奪されることを免れ、こうして香港から海を隔てた日本で目撃することができたわけである。この映像が存在する事実だけとっても、これからの香港の抵抗の可能性は完全に潰えたのではないと勇気づけられるとともに、それではわたしたちに何ができるのだろうかと途方に暮れてしまう。ここから闘争は再びはじまるのだと、フィクションと見まごうばかりの映像を信じるしかない。