このレビューはネタバレを含みます
特定の強い物語を語ろうとするより、ひたすらにその場その場で発生する状況の断片を積み重ねていくことを映画は選ぶ。それは組織化されておらず自然発生的に立ち上がったデモ隊を撮るうえで必然だったのだろう。その機動的なカメラは、突破を試みようとアジる演説の声に共鳴するように次々に開かれていく傘、逮捕・連行される際に脱げたであろう片方だけ残された靴、至近距離に撃ち込まれてくるガス弾の煙の軌跡など、驚異的な映像を収めていく。そして確固たる意志で行動する学生だけでなく、突破を試みる集団から遅れて何故か衝立の後ろで立ち止まってしまう少年や、外部から脱出させにやって来た校長たちについていくかどうかを階段の中間で逡巡する若者といった、「強大な権力に立ち向かう若者を捉えたドキュメンタリー」というイメージからは零れ落ちそうな者たちにもカメラを向ける。しかしそれこそが連帯するということであろう。