Kuuta

理大囲城のKuutaのレビュー・感想・評価

理大囲城(2020年製作の映画)
4.5
恐怖と無力感で涙出てきた…。

柳下毅一郎さんが同種のコメントを寄せていたが、笑えないほど「香港映画」然としていることに衝撃を覚えた。残酷な青春映画の香りがした。

映像の希少性、厳しい現場で取材に徹した精神力、混乱した映像を整理し、短期間で権利関係もクリアした編集力。どれを取っても、ドキュメンタリーとして非常にレベルが高い。

学生たちの装備は貧弱で、意見は何度も割れる。いかにも教室にありそうな、木製のパーテーションを盾に脱出を試み、画面奥から催涙弾が飛んでくる場面の恐ろしさたるや…。

終盤、学校の校長が構内に乗り込み、説得に当たる。彼らが現れた瞬間の異物感、ホントよく撮ってたなと思うが、普通の身なりのおっさんが中庭にゾロゾロ入ってくることで、空気が一瞬で変わる様が収められている。

一部の学生は説得に応じる。申し訳なさから号泣する青年。「お前の判断なら止めない」と友を見送る男は、不要となったガスマスクを託され、自らの胸に手を当てて応える。しかし静かな別れの後、今度は壁に手を当てて泣く。映画ですか?

なぜ諦めるんだと非難する者もいる。完全に感情的になっている者もいる。しかし撮影者は、シビアに状況を見極めている。出口に続く薄暗い階段を捉えた、引きのショット。投降者を止めようとする叫び、無視して「下界」へ降りる者、踊り場で逡巡する者。いずれの被写体も、冷静にカメラに収めている。

捕まれば見えなくされる、死体も消えると訴えた人がいた。警官に羽交締めにされながら、ガスマスクを外し、自らの名前とIDを叫んだ人がいた。実名では起訴され、匿名では事件がなかったことにされる。両者の鋭いせめぎ合いから生まれた今作は、ドキュメンタリーの価値と危うさに正面から向き合っている。

13日間の包囲が終わり、構内は無人となる。潰れた防護服?が風に揺られ、地面を滑っていくラスト。警官に抑えつけられた若者たちの姿がダブる。「赤い壁」の内側で屈服させられているようにも、今なお抵抗しているようにも見えた。90点。
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