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理大囲城のツボのネタバレレビュー・内容・結末

理大囲城(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

すごい映像だった。文字や言葉で「国という機関の大きさ、それと対峙する市民たち」という対立はよく見る。しかし、ここまで生々しい映像は初めて見た(他にもこのような作品があるのならぜひ見てみたい)。改めて国(”中国共産党”でもいいが、これはどの国にも共通している)というシステムがどれだけ大きな壁なのかを実感する。村上晴樹の「もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます」という言葉を思い出した。学生を囲む警察、そして理大の赤い煉瓦の壁は香港市民を囲う中国共産党の壁でもある。

緊迫感がビンビンと伝わってくる。私だったら、あの場でどのような選択をするだろうか。逮捕されること覚悟で、早い段階で逃走するか。校長たちの説得で外に出るか。あるいは最後まで残るのか。スマホという外との通信手段はあるが、どの情報を信じれば良いのかわからない。果たして外部から仲間は救済に来るのか。やがて内部分裂が始まる。正門へ続く階段で、仲間に説得され理大に居残るのか、それとも校長の話に乗せられて外に出るのか、悩んで右往左往していた青年が印象的だった。一体どれだけの人がそのような思いを抱いていたのだろう。少なくとも一視聴者である私は、その青年に同情をせざるを得なかった。逮捕されれば何をされるのかわからない。今日外に出られたとしても、明日捕まるかもしれない。多くの選択肢がある中で、最善のものを選び取るには勇気が必要だ。居残ることに耐えられなくなり理大を出る覚悟を決めた男の涙には、居残ることを決めた男の心中と同等の勇気があったと思う。映画を視聴した私は、どの選択をするべきだったのか答えはまだ出ていない。

この映画は香港では上映が禁止されているらしい。2020年に香港治安国会維持法が施行され検閲が強化され、香港での上映は一層困難を極めた(この法律が施行される前から上映は禁止されていた)。しかし、これは香港人だけの映画に留めていいものではない。全世界の人に共通するメッセージがあると思う。私たちは一市民でしかない。目の前には国という大きなシステムがある。そのシステムが暴走を始めたら、私たちにできることはただ呆然と立ち尽くすことだけなのかもしれない。


ポレポレ東中野には初めてお邪魔した。また行きます。
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