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理大囲城の一のレビュー・感想・評価

理大囲城(2020年製作の映画)
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1960年のロバート・デュー『Primary』から60年経って、これが現在のダイレクト・シネマか。警官隊とデモ隊の武力衝突を捉える前半部や包囲された理大からの脱出を図るシーンは、ほとんど戦争映画的なスペクタクルだ。ゴム弾や催涙弾をなんの躊躇いもなく撃ち込んでくる警官隊にはやはり顔がない。といっても、デモ隊側の人間の顔にもほとんどモザイクがかけられているのだが。この二者のあいだで音楽がやりとりされるのが面白い。そこでデモ隊が流すのがFuck The Police的なヒップホップなのすげー今っぽいよな。しかし、火炎瓶や弓矢を武器に息巻く反権力の高揚は、勝ちの見えない戦いのなかで疲労と混沌に減退していく。悲しいかな、これもまた見覚えのある景色である。籠城の内部で、カメラは青年たちの心の葛藤にフォーカスする。もう一度脱出を試みるのか、仲間の支援を待つのか、投降するのかしないのか、意見は割れ集団はまとまりを失っていく。涙ながらに投降を選択した者と大学内に残ると決心した者との袂別は、まるで青春映画みたい。去る仲間に託された装備を身につけながら、悄然と壁にもたれる姿が印象に残る。降りていく者と留まる者、階段の望遠ショットは象徴的なエンディングだ。
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