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理大囲城のeikotomizawaのレビュー・感想・評価

理大囲城(2020年製作の映画)
4.4
2019年秋、大人達はストライキを行い、未成年や学生を始めとした数千の若いデモ参加者は香港理工大を拠点に包囲された。陥落までの13日間。昭和の学生運動の記憶が色濃い日本の私たちからすると、まるで暴徒化した若者が好き好んで大学に籠城していたかのような邪推をしてしまうが、そうではない。不当な条例に抗議し、デモの末に理工大に行き着いた彼らは警察に完全包囲される。だから「理大囲城」。

雨傘運動以降の香港で、民主的な解決が絶望的な警察側に投降したところで今後の市民人生としての保証はままならない。外部からは救護物資を届けたくとも、理工大へ近くづくことさえできない。壁の内側にいる彼らは革命歌を歌うのではなく、一様に「帰りたい」と口々にしながら、終わりの見えない緊張感と兵糧攻めのなか、若者達は恐慌し、励まし、分裂し、疑い、慰め、交信する。

デモや暴徒を題材にする映画ではその漲る闘志や革命の暴走が描かれるが、現実は果てしない混沌で、街は荒れ、枯れるほど叫んでいるのに恐ろしく静かだ。撮影者や監督はおろか、日本語字幕翻訳者まで全てが匿名。記録が観れるありがたさと、彼らの行く末を案じてやまない。いつか香港で公開される日を願いながら
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