平野レミゼラブル

DAHUFA 守護者と謎の豆人間の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

DAHUFA 守護者と謎の豆人間(2017年製作の映画)
4.1
【正道から外れたからこその発展性。中国発のブラック・バイオレンス・アニメーション】
『羅小黒戦記』、『ナタ転生』、『白蛇:縁起』といった中国アニメの完成度の高さとエンタメ性を耽溺しておりましたが、今挙げたアニメ群が「王道」に位置するのであれば、本作『DAHUFA』は「邪道」……というより「カルト映画」に位置するアニメーション作品でしょう。
中国アニメ界は2015年の『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』の記録的大ヒット以来、子供のみならず大人も楽しめるアニメを!ということで多様性に満ち溢れていったとのことですが、本国では2017年公開の本作はそんなアニメ革新黎明期製作ということで色々野心的なのです。
特に、中国では特に厳しいと言われる暴力描写を限界ギリギリまで攻め、中国史上初のPG-13という年齢制限付きのアニメに。内容も人体や首がもげたりする単純な残虐描写のみならず、為政者の独裁に支配され虐殺される民といった明からさまな政権批判の側面もあるのであらゆる面で挑戦的です。


内容は達磨大師そっくりな見た目をした奕衛国の守護者・ダフファーが、国政を嫌い芸術を愛して出奔した皇太子を連れ戻す為に、ある村を訪れます。その巨大な豆が宙を浮遊する村の住民は全員見た目もそっくりで、言葉も発さず、そして自らの意志を持たぬ不気味なもの。皇太子を探して調査を続けるダフファーは次第にその「豆人間」から侵入者と認識され、命を狙われ追われることになるが……
といったもの。ダフファーは見た目こそ達磨そのものの低頭身で可愛らしいのですが、性格はシビアかつ殺伐としており、襲われれば躊躇なく殺す漆黒の意思を標準搭載しているため、かなり戦闘手段はバイオレンスです。
手に持った鉄を媒介にして謎のエネルギー弾を生成・発射する能力を持ちますが、そのファンタジックさに反してエネルギー弾を食らった相手の腕や首は千切れ飛び、土手っ腹に風穴が空くという具合のバイオレンスさ。
小柄ながら高い身体能力とヤバイ能力を駆使するため、向かうとこ敵なしの強さですが、専用の鉄杖以外では能力に耐えられずすぐ壊れてしまうため(木の枝は力を籠めるだけで蒸発し、ただの鉄だと3~5発程度撃っただけでオシャカになる)大人数相手では消耗戦となって苦戦するくらいのパワーバランスで戦闘を盛り上げてくれます。


ダフファーを襲う豆人間というのが兎に角不気味。全員同じ容貌だし、物言わぬから問答無用で銃をぶっ放してくるという。そんなのが集団で執拗に襲い掛かってくるのが何とも気持ち悪いのです。
しかも、血の色も青や緑だわ、首もコキコキ小刻みに揺らすわ、突然頭から大量に花を咲かすわの生理的嫌悪も強めという。全体的に世界観が現実的なのか幻想的なのかわからない境界線上にあるんですが、その境界をちょっとはみ出した側にいるため、終始豆人間が不気味の谷のような状態になっているという。

一方で、そんな不気味さや気色悪さと無縁の位置にいるのが本作における捕らわれのピーチ姫ポジションである皇太子殿下。見た目こそ、『HUNTER×HUNTER』のカキン国でえげつないことやらかしてそうな皇子の顔つきなのですが、作中随一の常識人にしてやることなすこと可愛らしいマジのピーチ姫的ヒロイン状態です。
確かに彼を守護する役割であるダフファーが、呆れ返って雑な物言いになるくらいにヘタレだし、ワガママだし、どうしようもない側面もある俗物ではあるんですが、この異常時にはむしろ皇太子のような反応になる方が自然なため、劇中で唯一感情移入が出来る人物に設定されているのです。
それに性格面は絶対嫌いになれない善性に溢れていまして、感情がないと思われた豆人間と交流し、友情まで結んでしまうそのコミュ力の高さがステキすぎる。出奔したのも、芸術活動に勤しみたいというワガママもありますが、本国での殺伐とした政争・戦争に巻き込まれたくないというのも理由の一つなのでどこまでも善人なのです。
まあ、皇太子としてはヘタレの一言ではあるのですが、それでも友の為ならば恐怖を抑えて自ら危険に突っ込む漢気を見せるので、「こんなの嫌いな人いる???」レベルに良いキャラをしている。完全にミスター・サタンとかドン・観音寺とかの愛すべきヒーローポジションです。

そんな形で誰でも楽しめる要素が随所に挿入されるエンタメ色もあるのですが、それでも冒頭から特に説明もないままぬるっと始まるので、中々状況を掴みづらい部分はあるやも。
意図的に説明不足にしている節もあるため不親切感は否めないのですが、逆にこの情報が不足している状況はワケもわからないまま謎の豆人間たちに襲われる緊迫感とマッチしてはいます。
個人的にも一見して呑みこみづらい状況を、頭を使って整理していくスタイルの作品は結構好きな方なので、これまで感じたことのない独特の映像体験として楽しめました。
感覚としては『クー!キン・ザ・ザ』とか『ファンタスティック・プラネット』に近い感じですかね。まんまカルト映画。

ただ、当初の構想では3部作の内の1作目ということで、謎は謎のままにされたり、これから明かされるであろう伏線なども沢山残ったまま終わってしまった感じかな。
一応、豆人間達との戦いには決着がつくので形には成っているのですが、本作のメイン敵である三角黒頭巾や意味ありげにソイツに付いているオリエント美女の関係性なんかは全くわからないままですし。彼らについては2部以降明かされるんでしょうが、やはりこの1作目だけでは尻すぼみの印象もあります。

またグロテスクな表現と言っても、そこまで過激すぎるほど過激ってワケではないです。デザインもデフォルメが効いていますしね。どちらかというと『ハッピー・ツリー・フレンズ』とか『サウス・パーク』的であり、そういう系統のグロさは強い感じではあります。
生理的なグロの方がキツイ印象で、豆人間の真実とかは中々「グエッ…」てなるエグさが強い。
……かと思えば、終盤には直球のグロ表現も来るので飽きることがないです。ある意味、最後の方のグロは、カタルシスにも繋がっていたんで個人的には結構気持ち良い感じに観れましたが。

アニメーション自体は戦闘でぬるぬる動き、豆人間の頭や腕が景気よく吹き飛ぶのもあって中々ケレン味がある感じではあります。が、要所要所で省エネ作画を施しており流石に全編に渡って凄いってワケではないです。
中国の山水画のような美しい背景や、摩訶不思議でどこか不気味な場所を冒険していく楽しさにも溢れていますが、物語自体は豆人間との追いかけっこだけで構成されているため、後半はちょっと見慣れ過ぎてアクションが単調になってくる弊害もあります。

シンプルかつ若干の悪趣味さがある逃亡劇ではありますが、話のテーマ自体は結構重厚。
豆人間たちは神仙を名乗る支配者に生殺与奪の権を握られており、奴隷以下の家畜として扱われています。これはもうどうしてもウイグル自治区等に対しての中国政府の所業を連想させ、中々挑戦的。
また豆人間の間には身体からキノコが生えてくる奇病が流行っており、感染が確認され次第処刑されるという、(本国製作時期には被らないものの)時節柄よく今公開できたなって感じです。
そこから更に派生して、人間と豆人間の違いからくる自己アイデンティティ、生と死の深い哲学、革命と粛清の構図等々かなり多くのテーマを内包しており、ブラックな社会風刺が結構機能している。こうしたチャレンジ精神含めて、中国アニメの発展が感じられるのも何だか良いですね。

能力バトル、銃撃戦、逃走劇といった娯楽要素も含まれるため、カルトアニメーションとしては結構観やすい部類だとは思いますが、それでも万人受けするとは言い難い作品ではあります。ただ、様々な制約を乗り越えて、中国でここまでの表現が出来る、そしてしっかり面白いため、メインストリートのアニメ同様に「これから」が期待できる野心作であるとも感じました。
むしろ、これだけ色々やらかしながら、よく本国の検閲が通ったなって感じなのですが、その特異性が受けたのか本国では約13.5億円という、他のメインストリートを歩む化物映画には及ばないもののカルト映画としては上々な売り上げを誇り、続編も製作されているとか。またチェックするものが増えたな……
改めて中国アニメ沼の底の深さを思い知ると共にどっぷり沈みだすディープな体験となりました。

ある意味オススメ!!