猫脳髄

墓地裏の家 4K レストア版の猫脳髄のレビュー・感想・評価

墓地裏の家 4K レストア版(1981年製作の映画)
3.2
2023年秋のフルチ祭り③

ルチオ・フルチの最高傑作「ビヨンド」(1981)に続く作品で、「地獄の門」(1980)と合わせてトリロジーを形成するとされる(※1)。3作品ともカトリオーナ・マッコール(※2)を主人公格に据えた点でも共通する。ただし、「地獄の門」「ビヨンド」に比べ世界観が後退しており、基本的には一軒家で起こる怪異に焦点を絞っている。「サンゲリア」(1979)以来の、異界・彼岸との接近遭遇と言う遠大なテーマはみられない。

自殺した同僚の研究を引き継いだ夫に付き添い、19世紀の怪しい外科医が住まいにしていたという「墓地裏の家」に越してきた一家を襲う地下の怪人という筋立て。編集が悪く、思わせぶりな人物の登場や目線、表情をばんばんクロースアップしたショットを継いでいくが、これらが実は何ら意味がないことに愕然とする。

焦点となる地下の怪人も、なぜか階上まで出てきたり出てこなかったりと理由も定かでないし、被害者を襲うまで異常に時間がかかっていることになってしまう編集上の失態を犯している。しかも怪人が2人いると誤認させるようなショットもあるなど、かなりやっつけであることがわかる(※3)。ただ、人体破壊表現だけは健在で、ここぞ見どころとばかりにしつこくカットバックする。

どうやら、脚本策定上の混乱が一因らしく、めざす方向性がバラバラだったようだ。フルチ作品の質は、起伏は当然あるものの、本作から下降線を辿り始めるとされる。フルチ祭りはまだまだ続くが、これより質が下がるとなってくると苦しい。

ちなみにフルチ自身が、マッコールの夫パオロ・マルコ(本作以降、フルチの盟友になる)の同僚として出演する。また、夫妻の子どもに警告する謎の少女Silvia Collatinaが魅力的な雰囲気をまとっている。「ビヨンド」のサラ・ケラー(別名:シンツィア・モンレール)に通じる気品がある。

※1 トリロジーは後づけで提唱されたようだが、あまり同意できない。「サンゲリア」から「ビヨンド」までならまだしも、だが。
※2 フルチ名物"崖削れ"ならぬ"階段削れ"を披露してくれる。
※3 ただし、怪人が子どもの声で呻くさまは尋常ではないものがある。
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