浅野公喜

フルチトークスの浅野公喜のレビュー・感想・評価

フルチトークス(2021年製作の映画)
3.5
晩年のルチオ・フルチ監督が80分程ひたすら喋り倒すドキュメンタリー。その姿は気難しそうな外見に反して好々爺そのもの。今頃になって作品になったのが不思議で、「1993」という表示や「羊たちの沈黙」が話題に出る辺り1990年代前半の映像と思われます。

特に凝った演出は無く、ひたすら語る作品なのでファンではないとキツいものが有るかもしれませんが、自身のキャリアを振り返りつつ、手掛けた作品や様々な監督の作品についての批評等が色々語られ、中にはイタリアンホラーの元祖的存在マリオ・バーヴァ監督とのエピソードや、(おそらく最大のライバルである)ダリオ・アルジェント監督への批判も含まれています。アルジェント監督とは亡くなる直前に和解しましたが、劇中でも自身を「遅咲き」と語っていた下積みが長かったフルチ監督にとっては、映画関係者の息子というサラブレッド的存在且つ早くから世に出て脚光を浴びた「早咲き」アルジェント監督に対し、批判以前に嫉妬に近い感情を抱いていたのは想像に難くありません。

自身の作品では例えば「ナイトメア・コンサート」を熱心に語っていましたが、惜しむらくは今作は配信はおろかDVD化もされていない点。フルチ監督にとっては珍しいギャング映画「野獣死すべし(勿論not角川映画)」等と共に観たいフルチ監督の作品だったりします。スピルバーグ監督が手掛けたテレビ映画「恐怖の館(日本ビデオ販売時のタイトルは「ヘキサゴン」)も評価していますが、これも気になる所。

最後の最後に、「記憶に残れば私は生き続ける」と語ったフルチ監督。ファンである自分にとっては彼は確かに「生き続けています」。
浅野公喜

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