さく

月光の囁きのさくのレビュー・感想・評価

月光の囁き(1999年製作の映画)
5.0
春日太一さんが以前ライムスター宇多丸さんのラジオで激賞していたのでずっと見たい映画だったのですが、DVDは廃盤で中古はプレミアついて1万円以上する、TSUTAYAには置いていない、TSUTAYA discusでは延々と順番待ち、サブスクも無い…と見るすべがなく我慢していたのですが、この度新宿武蔵野館さんで上映する、かつ監督の塩田明彦さん、原作の喜国雅彦さんによるトークショーもあるとのことで、夜な夜な新宿に駆けつけました。

原作はざっと目を通していたので(もう一度きちんと読み返します!)何となく展開はわかっていたのですが、期待通りの作品でした。待った甲斐あって映画館で見られて良かった! トークショーの中で「今日初めて見た方います?」の質問に対して1/3(もっとかも)くらいの人が手を上げていたので、私と同じような人も多かったのかもしれません。

以下、ネタバレ及びトークショーの内容を含みます。

わかったぜ 報われぬ そのわけ
人として 俺、軸がぶれてんだ
(『人として軸がぶわれている』大槻ケンヂと絶望少女達)

ところが本作のテーマ曲はスピッツ。喜国先生曰く「スピッツに救われなければただの変態映画だった」。私もここは予備知識無しだったので、エンディングでスピッツがかかった時には「(この内容で)スピッツかよ!!」と思わず口にしそうになりました。映画の予算が少ない中、塩田監督が草野正宗さんに「曲を使わせてください」と手紙を書いて実現したそうです。

「女にモテているようなバンド(スピッツ)は敵だと思っていたら実は“こっち側“の人たちだった」(喜国先生)。スピッツのたまに開かれた試写会ではメンバー全員上映後には「ニヤニヤしていた」(塩田監督)。スピッツはそこそこ好きだったけれど、大好きになりましたよ! 将棋の藤井聡太先生もスピッツ好きを公言してましたし(好きな曲は「魔女旅に出る」と渋い。ちなみにこの曲が収録されているアルバム『名前をつけてやる』は名盤です)、ファン層が幅広すぎるぞスピッツ!

とにもかくにも、「好きな映画は?」と聞かれて「月光の囁きです」と答えたら、ちょっとアレな人と思われるような内容ですが、こういうのが好きなんだから仕方がない。日高拓也役の水橋研二、北原紗月役のつぐみ、ともに「この二人しか考えられない」と思える名演。作品のイメージ通り。

「水橋くんじゃなかったら、許せない変態ですよ。水橋くんの顔と声だから何故か許せちゃう。サスペンスドラマとかでも彼が犯人役だと何も言わなくても、色々あったんだね…と納得してしまう。そういう役者」(喜国先生)。ほんとそう思います。

そしてやはり最高なのはラスト前の病院のシーン。「シリアスなのかジョークなのかどっちとも取れる。笑ったらいいのか泣いたらいいのか」(塩田監督)。「コーエン兄弟っぽいシーン」(喜国先生)

映画は二週間というタイトなスケジュールで撮られたとのことで、喜国先生「撮影が始まったというので見に行こうと思ったらもう終わってた」。名シーンの一つである紗月が雨の中田んぼに靴下を投げるシーンも「一発で撮った。結果、良いシーンが撮れた」(塩田監督)。「しかしほんと絶妙の位置に投げたよね」(喜国先生)。つぐみさんのナイスプレーで成立した名シーンです。

「海外で上映したとき、上映後には黒人3人くらいに囲まれて、『これはお前の自伝か?』と聞かれた。事前に喜国雅彦という天才漫画家の原作って説明してるのに。説明するのも面倒だから『イエス』と答えたけど。そしたらうれしそうにして意気投合した」(塩田監督)。「日本以外にもこういう奴らがいるんだよね」(喜国先生)

それならば居直れ! もう
ブレブレブレブレブレまくって 
震えてるのわかんねぇようにしてやれ!
(『人として軸がぶれてる』大槻ケンヂと絶望少女達)
さく

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