TaiRa

月光の囁きのTaiRaのレビュー・感想・評価

月光の囁き(1999年製作の映画)
5.0
人生ベストなので劇場で観れて良かった。至高の映画。

喜国雅彦の谷崎オマージュな原作を、90年代日本映画らしい情念排除の演出で描いたのが好き。芝居の温度、カメラの距離が常に的確で。まず、この映画のつぐみは映画史でもベスト級の映り方してる。女優が素晴らしいだけで大概傑作なんだが、その域でも究極である。話はマゾヒズムに開眼した少年と、そんなマゾ(というかエゴマゾ)に執拗に迫られる少女のラブストーリー。序盤に「普通の」恋人同士の初々しい恋愛を描くのが効いており、例のテープが再生された時の崩壊っぷりが美しい。今作が素晴らしいのは、特殊性癖云々は置いといても愛の成就なんてとどのつまり、妥協と最適化でしか成し得ないと割り切っている点。それを踏まえた上で純粋なラブストーリーにしている。エゴマゾに対し、諦観と共に段々とサドに覚醒して行くつぐみが素晴らしい。見下ろす側と見下される側の上下間での切り返しが入るポイント、あおりで撮られたつぐみの軽蔑に染まった眼差しが完璧である。完璧と言えばつぐみが靴下を田んぼに投げるショット、靴下の落ちる場所が完璧。水橋研二が拾いに行くと丁度フレームの真ん中に配置される訳だが、これはつぐみのコントロールが良いのか、良い場所に落ちるまでテイク重ねたのか気になる。前半は水橋研二が自身の性癖に葛藤するドラマだが、ある段階から彼だけ割り切ってしまうので、カメラはつぐみのドラマを追い始める。この構成も改めて上手いと思う。ラストに於いて、片目の二人が一対の存在になった事がビジュアルで見せられる。相手に自分の半分あげた二人を高らかに祝福する『運命の人』がすこぶる爽やか。
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