クシーくん

天晴れ一心太助のクシーくんのレビュー・感想・評価

天晴れ一心太助(1945年製作の映画)
3.2
エノケンが主役で、かつ黒澤明脚本という字面だけに惹かれて鑑賞。
貧乏長屋に越してきた一心太助を主役に、長屋の住人に悪さをする悪徳旗本と対峙する人情コメディ時代劇。皆で一致団結を謳い上げる所に僅かに時局柄を思わせる部分もあるものの、基本的には至って能天気な作風。貧民を脅かす小悪党に力を合わせて立ち向かうという構図は後年の七人の侍に通じるものを感じた。

図体は途方もなく大きいが一度も勝った試しのない相撲取りの岸井明は出てくるだけで自然と見ているこちらが笑顔になる。愛嬌たっぷりの声で見事に相撲甚句を唄い上げる所は必見。
その他、陰気で口の悪い蕎麦屋の土左衛門に渡辺篤、インチキ易者にアーノネのオッサンこと高勢実乗など当世随一の喜劇人が多く登場し、特におしゃべりな大工役でまだ若い頃の坊屋三郎の立板に水な江戸弁が耳に心地良い。喜劇人ではないが、エノケンの糟糠の妻としてコメディエンヌな轟夕起子がとびきり美しい。単に美人というのではなく、こういうしっかり者のおかみさんはいいな、と思わせる特別な魅力がある。

今見ても笑えるギャグはあるにはあるが、そのネタを何度も何度も繰り返すので、ちょっとしつこい。天丼も度が過ぎると飽きる典型だが、この頃は天丼の定石とかなかったのかな。
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