このレビューはネタバレを含みます
ムンバイ市警警察署長となったアーディティヤ・アルナーチャラムは、麻薬組織との戦いの中で恨みを買い、最愛の娘の命を奪われてしまう。復讐の鬼と化した彼は、黒幕の伝説の麻薬王に戦いを挑む。
家族を殺されたオッサンの復讐、という物語はこすり倒された題材ではあるが、ラジニ・カーント風味が足されると一味違う。
まずインド映画ならではの158分という上映時間も明らかにこのジャンルにはそぐわないのだが、それでもラジニ・カーントがいつも通りのラジニ・カーント演技でどんな強引な操作もいとわないはみ出し刑事(とはいってもムンバイ州警察の最高権力者だが)をノリノリで演じ、明らかに不必要な分量で彼の活躍を描いていて、そのアンバランスさが癖になってくる。
復讐人というタイトル通り、いずれ彼の娘が殺されるのはわかっているのだが、それまでがまあ長い長い。冒頭で復讐鬼と化した主人公の戦い(とはいってもやはりコミカルだが)が描かれ、そこから娘が殺されるまでの顛末が説明されるのだが、途中そのことを忘れてしまうようなラブコメ展開、無双バトルシーンが続き、ヘラヘラ笑っていると、ギョッとするようなタイミングで悲劇が起きてしまう。
この手のジャンルでは珍しく、主人公の大事な人が死を受け入れるまでの時間があり、そこでの娘役のナヤンターラはすごくいい演技をしていて、印象的だった。
その後、怒りにかられた主人公の行動は常軌を逸していて、というかその前の強引な捜査方法も無茶苦茶すぎて、なぜ逮捕されないのか不思議なレベルだが、なんだかんだラジニさんならこれくらいするかな?と思わされてしまう。
ラスボスとの戦いの描き方も結局ノリノリで、題材とトーンのバランスがあっていないし、長すぎるし、ツッコミどころはキリがないが、いろいろとコンプライアンスを無視してスターのスター性を前面に押し出した潔い作りが気持ちよく、なんだかんだで満足して劇場を出られてしまう。
かつてスターとはこんな存在だった、と若い世代でもなんとなく肌感覚で分かる、古くてありきたりだがそれを突き詰めたある意味新しい映画だった。