空海花

東京クルドの空海花のレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
3.8
日本に住むクルド人青年を5年以上取材し、日本の難民認定の問題に迫ったドキュメンタリー。
18歳のオザンと19歳のラマザン。
小学生の頃から難民申請を続けている。
いつ収容されるかわからない不安を感じながら、入国管理局に通い、将来を思い描く日々。
監督はこれまでテレビドキュメンタリーを制作してきた日向史有。
テレビではクルド人問題は企画が通らないため、映画として製作されることになったらしい。
本作の短編版『TOKYO KURDS/東京クルド』が、Tokyo Docs 2017の「ショート・ドキュメンタリー・ショーケース」で優秀賞を受賞。

2021年5月、世論の高まりを背景に
日本の入管法改正案は事実上、廃案となった。
だが、難民条約を批准しながらも難民認定率は1%に満たない日本の現状に変わりはない。

オザンとラマザンは入管の収容を一旦解除される“仮放免許可書”を持つが
期間は一月ないし二月である。
身分は“不法滞在者”のまま。
住民票もなく、働くこともできないし
県外に自由に移動することもできない。
じゃあどうすればいいのか?
問うと入管職員は「自分で何とかして」と言う。

日向監督は日本に住む難民の話を聞きたいと、支援団体などの取材を始め
在日クルド人たちで作る「日本クルド文化協会」を知る。
クルド人は「国を持たない最大の民族」と呼ばれる。
独自の言語や文化を持ち、中東のトルコやイラク、シリアなどで暮らす。
少数派の各国で差別や弾圧の対象になってきた。
同協会によると迫害を逃れて日本に住むクルド人は埼玉県を中心に約2000人。うち7割ほどが難民申請をしている。
トルコ政府と対立しているクルド人難民については、親日国でもあるトルコへの忖度もあり、2000年以降一人も難民認定されていないと言われている。

若者の中には、過激派組織「イスラム国」と戦いたいと話すものもいるという。
「日本には居場所も希望もないから」

オザンとラマザンを見ていると、
とてもそんなことができるとは思えない。
希望を捨てずに入学できる学校を探すラマザン。その姿には応援したい気持ちとやるせない気持ちが混ざり合う。
オザンは「この国では自分らクルド人は虫けら以下だ」と言った。
アイデンティティはクルド人だが
小学生から日本に暮らしてきて、これからも暮らしていきたいと思っている。
そう言葉にはするが、常に揺らいでしまうだろうし、それは辛いことだ。

極め付けは
「帰ればいいんだよ。他の国行ってよ」
軽口を叩くように入管職員が言う言葉。
こんな日本語を話す人がいることが悲しくて、腹立たしい。

本人たちが撮影に応じたとはいえ不利益になりかねない場面もあり、
日向監督は今も葛藤があるというが、「映画に出ることで誰かに自分の存在を認めてもらう。それは彼らの人生にとって、リスクの回避より大切なことかもしれない」
存在を認めてほしい─確かにそんな想いを二人の言葉の端々に感じた。

難しいことはわかるが…解決に一歩も進もうとしていないとしか思えない。
そして私たちにも問いかけてくる。
クルド人の若者の生の声を聴いてほしい。


2021レビュー#173
2021鑑賞No.388/劇場鑑賞#73
空海花

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