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東京クルドのKUBOのレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
4.5
新作『アイアム・ア・コメディアン』を控える日向史有監督の前作『東京クルド』を鑑賞。

通訳になることを目指して勉強に励むラマザンと、解体工として働くオザン、2人の青年の視点から日本にいるクルド人の抱える問題を追ったドキュメンタリー。

2人は幼い頃に家族と共にトルコを脱出して日本に来たクルド人で、日本の学校に通い、日本語を話す普通の若者だ。

だが、学齢を過ぎた今、彼らには「仮放免」の移民であることの大きな壁が立ち塞がる。

「仮放免のルール」って何だろう?

暮らしていくには働いてお金を稼がなくてはいけないが、「仮放免」中の移民は「働いてはならない」というルールがある。

だから彼らは足のつかない仕事をして生活費を稼がなければならないし、それが見つかれば「入館施設」に投獄される。日本にいること自体が不法滞在とみなされるからだ。

そもそも、難民認定されたクルド人は1人もいない。それは日本とトルコが友好な外交関係を結んでいる以上、トルコがテロ組織のようにみなしているクルド人を難民認定すれば2国間の外交問題になってしまうからだ。

このクルド人問題は、つい最近認められたスウェーデンのNATO加盟問題の障害にもなっていた状況と似ている。

ラマザンの叔父は入管に捕まって施設に監禁されるが、具合が悪くなった叔父のために、家族が呼んだ救急車を入管が帰らせるといった事件にもなり、ニュースで報道もされた。

いつまでも具合がよくならない叔父はついに通院を許されはするが、手錠をかけられたままの通院で、まるで罪人扱いだ。

入管施設には1000人を超す外国人が収容されている。2007年以降、収容者の死亡者は17名、その内5名は自殺だと言う。

ラマザンは英語を学んで通訳として日本で働きたいという夢を持っているが、在留資格がない「仮放免」の身分では次々に学校から入学を拒絶される。オザンも解体ではない他の仕事に就こうとしても「仮放免」の身分では雇ってもらえない。

トルコにいるよりは「安全」だから、と言っていた彼らの自己肯定感が崩れていく。

では「働いてはいけない」彼らはどうやって日本で生きていけばいいのか?

「働いてはいけない」のなら、ボランティア活動を義務付けた上で衣食住を保障するとか、第三国に穏便に出国させるとか、できないものだろうか?

「働くな」と言って野に放ち、「働いた」からと言って入管に拘束する。今のルールは全く無意味だ。

本作では全く触れていないが、そもそもクルド人が難民になっているのは、クルドが居住していた土地がトルコ、イラン、イラクなどにまたがった山岳地帯であり、その土地がそれらの国々に分割統治されていることに起こる。

だからクルド人は自らの国を持たない最大の民族と呼ばれているのだが。

幸にして、ラマザンは大学に合格し僅かながらに希望を持てたが、オザンはこの先どうしていくのだろう?

先日、国会で、この入国法の改悪が自公維新の賛成で可決されたが、本改正で難民認定三回目以降の申請者は強制送還されることになる。

彼らは本国に帰れば殺されるかもしれないのに。

移民問題はヨーロッパ各国でも様々な問題を抱えているし、日本においても住民とクルド人との間の問題も多々あることは聞いてはいるが、今のこの日本国としての難民問題への対応がこのままで言い訳はない。

我々は知らなければいけないし、また映画は私たちに多くを教えてくれる。素晴らしいドキュメンタリーを届けてくれた日向史有監督に感謝。新作も大いに楽しみだ。
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