馮美梅

ONODA 一万夜を越えての馮美梅のレビュー・感想・評価

ONODA 一万夜を越えて(2021年製作の映画)
4.0
今の若い人にとってはどうなのかわからないけれど、私の子供の頃、戦争が終わって何十年も経ってから戻ってきた人が2人いました。

1人はグアム島に潜伏していた横井庄一さん「恥ずかしながら帰って参りました」の言葉が忘れられません。

そしてもう1人が今回の作品の主人公である小野田寛郎さんです。
フィリピンのルバング島にいた小野田さん。
上官からの教えで自ら死ぬ事も、投降することも出来ず、家族の呼びかけにも応じず、しかし、当時の日本の時世も知っていたにもかかわらず、ひたすら上官が迎えに来るのを待ち続けていた。

きっと家族の声や姿を見て投降したかったこともあったと思うけれど、それは自分が教えられたことと相反する事だから。それが良いか悪いかは別としてそのように教育された彼には自分でそれを選択する権利もなかったのかもしれない。軍というのはそれだけ絶対的なものだったのだろう。

特に一緒に行動を共にした赤津・島田・小塚との日々は色々あったと思う。特に島田が死んで、赤津が逃亡して(彼が逃亡して日本へ戻ったことがきっかけで小野田さん達がルバング島で未だ武装していることを知ることになるのだが)小塚と小野田の2人だけで特に小塚さんは何を思っていたんだろ?きっと彼も日本に戻りたかったかもしれないだろうに、やはり小野田さん1人を置いていくわけにはいかないと思ったのだろうか…

日本人の俳優、日本語のセリフだから日本映画と思っちゃいそうになるけど、フランス映画なんだよね?概ね良かったとも運だけど唯一残念だったのが、日本時代の描写、特に海南のお店や父親と話をするシーンの部屋の設えがとても残念だった感じがします。それ以外のシーンは違和感を感じませんでしたけどね。

役者さん、特に主役の小野田さんを演じた青年時代の遠藤雄弥さん、そしてバトンを引き継いだ津田寛治さんが本当に小野田さんにそっくりで驚きました。特に目の表情が印象的でした。

島田を演じたカトウシンスケさん、農民出という事で食べ物や家づくり、そして草鞋作りなどサバイバルに長けている役がお見事だなと思いました。

何より小野田と常に寄り添っていた小塚を演じていた松浦祐也さんと千葉哲也さん、切り替わってもあまり違和感なく、2人の別れのシーンは凄く切なかったです。本当にあんな最期だったのなら本当に悲しすぎるなぁと。

最終的に小野田さんを見つけ接触した青年・鈴木紀夫さんを演じた仲野太賀さんの飄々とした感じが鈴木さんに似ている気がしました。彼が言っていた「野生のパンダと小野田さんと雪男を見つける」という言葉、本当にその夢を追いかけて亡くなられました。

小野田さんのように陸軍学校などで教育された軍人の方の中にはやはり小野田さんと同じように終戦後も戦いを続けた人もいました。

「太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男-」の大場栄も終戦後サイパンで戦い続けました。そして上官が降伏宣言を伝えに来て投降しました。

陸軍中野学校二俣分校での上司にあたる元上官・谷口義美さんの言葉を信じて小野田さんも迎えに来てくれることを待ち続けていたのに本人はそんな言葉も忘れてしまっていたのが残念です。

でも彼の教育があったから生き延びることができたともいえるのでどちらが良かったのかなんて今はわかりません。

長い作品ではありますが、第二次大戦が終わった後にも戦い続けた人がいたことは歴史としては残しておくべきものだと思いますので、いろんな人に見てもらいたいなと思います。
馮美梅

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