ボブおじさん

梅切らぬバカのボブおじさんのレビュー・感想・評価

梅切らぬバカ(2021年製作の映画)
3.8
正論が幅を効かせる時代である。正論は正しい、だけど少し寂しい時もある。母はなぜ通路まで伸びた梅の枝を切らなかったのか?

〝桜切るバカ、梅切らぬバカ〟
それぞれの木によって適切な手入れが必要であり、木の個性を無視した手入れを諌めた故事である。

人間も同じで人によって適切な育て方や付き合い方はそれぞれ違い、それを無視して一律な育て方、付き合い方をしても上手くはいかない。

桜のように余計な手を掛けない方が綺麗な花を咲かせる木もあれば、梅のように小まめに剪定しなければ実らない木もある。

母は自閉症の息子を手塩にかけて、一生懸命に育てた。それでも息子は周りに迷惑をかけてしまう。
グループホームなどの施設は社会的に必要ではあるが、近隣に迷惑をかけることもある。

私たちは家庭でも学校でも周りに迷惑をかけないように教わってきた。それでも生きている限り、人は他人に迷惑をかける。気づかぬうちにかけることもあれば、わかっているけど、かけてしまうことだってあるのだ。

敷地をはみ出し通路まで伸びた梅の枝は、明らかに邪魔で危険でもある。母親はその認識を持ちながらも、この枝を息子にとっての亡き父の思い出という極めて個人的な理由で切ることができない。

隣人は、正論を述べてこの枝を切らせることもできる。だが切るだけが解決方法なのか?大切なのは寛容とお互い様の気持ち。地味だけどちょっといい映画を見た気になれた。