KO

グレート・インディアン・キッチンのKOのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

観ていて非常に辛い内容で、何度も観るのやめようと思いながら最後まで鑑賞しました。
このビジュアルは鋭い嫌味だなと思った、女性差別とミソジニー、家父長制度と男性優位についてのお話。
インドの伝統的な家庭の話だから特別、ではない。レベルや程度は違っても今も日本でも女性だったら自分も同じような目にあったことがいくつもあると思う。
何てことない日常が手間をかけた料理を作るシーンの積み重ねとともに丁寧に描かれることで、知識層であるにも関わらず、自分の身の回りのことについては全く頭を使わないこの家の男性たちの保守的な愚鈍さが見ていてイライラするしどんどんその怒りが主人公の妻と同じように溜まっていく。

- 家で何もしないくせに家事のやり方に細かく口を出す(それも伝統的な非科学的なやり方がベストと思い込んでる)。
- 自分は女性たちに好き勝手言うくせに女性からの言葉がちょっとでも気に食わないと執拗に謝罪を求め、謝った後も折あるごとに嫌味を言う。
- 客のくせに、自分の家のやり方に固執して、出された食事や飲み物に平気で文句を言って作りなおさせる。
- 家父長制度にどっぷり浸かっているため父親に弱く、妻の希望を父親にとりなすこともできない息子。
- 男性中心の思想に染まっていて、嫁いだ家のやり方に従え、大したことじゃないとしか言ってくれない実の母。
- 料理を作ったはいいけど片付け洗い物は全くしておらず、キッチンをしっちゃかめっちゃかにする。しかも片付けのことなんてこれっぽっちも考えにも出ない男客。
- 女性への扱いに疑問を持たず、男性目線の習慣を強要する親類の女性。

一番女性に対する扱いがひどいのは家長の父親だと思う(自分の姉妹?が作った料理に母の味に似てるねと喜ぶシーンも、ここまでの蓄積があると年寄りの癖にまだマザコンなのか?と怒り&げんなり)。
また、女性の生理に対する穢れの認識が凄かったのですが、これは文化や宗教上の問題も絡むので何とも言えないとは思ったものの、セックスの痛みも含めて女性の身体に対する教育と理解が全くないのが観ていて辛いやら腹立つやら(それはお互い様なのかもだけど)。

これら数々の不快な内容の中で一番嫌だと思ったのは、伝統の継承という旗の下に女性差別の価値観が継承されていっているのがはっきり突きつけられること。この父親にしてこの息子あり。それが男性だけでなくその家側の女性にも浸透しているところが見ていて辛かった。

最終的に妻は蓄積した怒りを爆発させて家を出ていくけれど、決してハッピーエンドでもすっきりもしないエンディングと思いました。
怒りを爆発させたときにまず自分が思ったのは、「殺されるのでは」だし(インドの女性に対する色んな事件の情報を見るとついそう思ってしまう)、妻は殺されずに家を出るけれど、実家に歩いて帰る道ではおそらくヒンズー教の集会で「閉経まであきらめない」というマントラを唱える(唱えさせられる)女性たちがいて今の女性の地位と理想の扱いのあまりにも大きなギャップにめまいがするほど。
夫はしれっと再婚して全く反省していない、というか何が悪かったか全然理解もしていない。一方の妻が、希望していたダンスの講師としてチームの指導をする最後のシーンには男性は一人も出てこないのが、これが決して進歩でも改善でもなく、逃避で、逃避が現実取れる唯一の最適な方法なんだな・・・と辛くて涙が止まらなかった。

でもこの変な夢を見させないエンディングが誠実だし説得力があったと思う。
再観する勇気はないけど、すごい映画でした。

男性がこれを観てどう思うかとても気になります。
KO

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