リンチがペンシルバニアの美術学校の2年生だった頃、課題で作った彼に取って初めての作品(短編アニメーション)がこちら。
6人の人物が丸出しの内臓からものを逆流させる様子が、フランシス・ベーコンの絵画を思わせるグロテスクな画風で、けたたましくなり続けるサイレンのなか繰り返される。
シュルレアリスムに影響を受けた、独特のユーモアをたたえる夢幻的なセンスがすでに顔をのぞかせているのが印象的だ。
のちに『イレイーザヘッド』冒頭に登場する"惑星の男"を演じ、『キャリー』、『ツリー・オブ・ライフ』、『レヴェナント』などの作品で美術を担当したジャック・フィスクはリンチの同窓生。
当ショートフィルムでリンチと共同で撮影を行なったフィスクは、その後何度もリンチとコラボレートすることになる。
『6メン・ゲッティング・シック』は当時の同窓生たちから評判が良かったに関わらず、リンチ本人は
「もう映画作りはいいかな…作るのにコストがかかるし…」
と思ったそうだ。
しかし今作を絶賛したクラスメイトから、リンチはアート展の企画に誘われた。
「僕の家をインスタレーション作品にしようと思うんだ。ついてはデヴィッド、その作品のために"6メン・ゲッティング・シック"のような新作映像で協力してほしいのさ。予算かい?1000ドル出させてくれ」
リンチは二つ返事で「OK」
新しいカメラも買い、作成は2ヶ月をかけて行われた。
ところが残念。
1/3が実写で2/3がアニメーションの作品として完成したその作品は、技術的な失敗で完成版フィルムがボヤ〜っとボケた映像になってしまった。
結局、主宰のクラスメイトは企画を中断。
ところが太っ腹なもので、予算の残りはリンチに「使っていいよ」と託された。
その予算がリンチがのちに手掛ける『The Alphabet』、ひいては『イレイザーヘッド』の撮影へと引き継がれるのである。