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シェイン 世界が愛する厄介者のうたのKKMXのレビュー・感想・評価

4.2
 ロックの日にアイルランドが誇るアスホールロケンローラー、シェイン・マックゴーワンのドキュメンタリーを観てきたぜ、シェケナ!😎

 シェインはアイルランドの民謡とパンクを結びつけたバンド、ポーグスの中心人物。個人的には非常に思い入れの強いミュージシャンです。本来ならば忠誠心を示すために初日鑑賞を目指しましたがスケジュール的にムリだったので、せめてもの償いのため、仁義なき戦いのミキティTシャツをキメて鑑賞しました。


 還暦を迎えたシェインは、ちょっと引くくらいヨレヨレで、どうやら立つことも難しいらしく終始車椅子でした。酒は節制しているとか言ってるけど、インタビュー中ずっと飲んでいる。ヤクはやってないとのことだが、どうなんでしょう?とりあえずシェインは健康に生活するという概念がないようです。

 シェインの人生はなかなか痛々しい。酒とドラッグにずーっとドップリな人生は故・中島らもを彷彿とさせます。両者共に根っこを刈り取られたまま彷徨うように生きざるを得なかったようなイメージを持ちます。
 中島ラモーンは教育に対して強迫的な母親に勉強をドーピングされて自分が自分じゃなくなかった感がありそうですが、シェインの場合は幼少期に愛する故郷と分離されてしまったことが、終生彼を苦しませていたように感じました。


 シェインはアイルランドのド田舎で生まれて、野生児のように伸び伸び育ちます。タバコも酒も賭け事も5〜6歳で覚えたようです。しかし、少年時代になると両親とともにイングランドに渡り、そこで都会人として生きることになります。
 で、シェインはイングランドに来てから今日に至るまでずーっと、ずーっと適応できていない!なんか気の毒になりました。
 少年〜青年時代はずっとアイルランド系として差別の対象になりいじめられてきたようです。それへの怒りも大きいのでしょうが、自分にエネルギーを常に与えてくれていた母なるエメラルドの大地から切り離されて灰色のイングランドで無機質に生きざるを得ないことが、シェインにとってマジで、マジで無理だったんだなぁと感じました。その後、わざわざ故郷の民謡をパンクに解釈するバンドを組むわけですから、幼少期にアイルランドの大地から受けた恵みこそがシェインの生なのではと感じます。
 ポーグスの曲はおしなべて郷愁があるんですよ。失われた過去への悲しみが胸を抉ってくる、そんな曲が多い。不条理への怒りの曲もあるけど、圧倒的に悲しく切ないです。それはアイリッシュ・トラッドの哀切な調べだけではなく、歌詞にも現れていると感じます。この悲しみは、シェインが愛するアイルランドから切り離された悲しみなんでしょうね。劇中でも言及されていました。「ポーグスは移民のバンドだ。移民だからあのバンドは成り立っている」と。


 一方で天才であることは疑いない印象。適応できないとはいえ、学校では奨学金を得るほどの優秀さで、すぐドロップアウトするものの学校でヤクを売りさばくというエピソードから、ただの不良じゃないですね。「ガリ勉にはスピードが売れるんだ。でもテスト前に間違えて鎮静剤を売っちまった」とかヤバい話ですよ。読書家のようですし、誰の権威にも絶対になびかないアティテュードは、自分の知性に絶対の自信がないとできないと思います。シェインは自身の天才性を上手く発揮して、苛まれ続けた分離への痛みを歌に昇華し続けたのでしょうね。


 シェインが本格的にダメになったのは『ニューヨークの夢』でブレイクして、ハードなツアーを敢行した時からでした。
 海外のバンドのドキュメンタリーを観てると『ブレイク→ツアーがキツい→酒かドラッグに逃げる→依存症でボロボロ』パターンばかりですね。ただ、シェインはガキの頃からアル中で、ティーンのころからヤクもバリバリだったので、ドラッグでダメになった印象はなかったですね。ただ、バッドトリップの話が出ていたので、ヤクをキメても逃避できないレベルだったようです。

 ただ、バンドを辞めたからと言ってシェインが解放される様子は見られませんでした。シェインは「IRAに入れない臆病者だから代わりにバンドで歌ったのに、ただのロックバンドになってしまったから終わった」みたいなことを言ってました。ここまでの罪悪感を抱いていたのか……と絶句しましたね。シェインの本質はアイルランド解放の運動家なんですよね。
 しかし、はっきり言ってテロリズムなんかよりアートの方が強いんですよ。1989年のチェコのビロード革命で歌われた『ヘイ・ジュード』だったり、マンチェスターのテロの後に歌われた『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』であったり……長期的に見ると、芸術の力が痛みを乗り越えて未来に光をつなぐのです。IRAに入って爆弾テロを起こすよりも、シェインが紡いだ歌の方がアイルランドに貢献していると思います。シェインの歌を聴いた後世の人たちが郷愁を感じ、アイルランドに目を向けるかもしれません。シェインは愛するアイルランドと切り離された人生を送らざるを得ませんでしたが、アイルランドに愛を届ける人生でもあったと思います。



【ポーグス!ポーグス!ポーグス!】

https://youtu.be/j9jbdgZidu8
ニューヨークの夢(Fairytale Of New York)
ポーグスと言えばコレですね!本当に美しい曲。シェインは歌うスキルが無いのですが、パートナーの故・カースティ・マッコールがめちゃ上手いので見事なポピュラリティーも獲得してます。ニューヨークに渡ったアイルランド移民のカップルの歌。歌詞も切ないですよ〜

https://youtu.be/As1arDcWtWA
ニューヨークの夢・和訳付き動画
で、日本語和訳付きバージョンはこちら!もう若く無い、輝かしい未来もない移民カップルがもう一度前を向く3番は泣ける!

https://youtu.be/xempnzVy3Vs
回想のロンドン(The Sick Bed of Cuchulainn)
アップテンポの曲で最も好きなナンバー。間奏部分のアコーディオンとホイッスルのリフが激カッコいい!この曲、ホイッスル担当のスパイダーがドイツで寝小便したことをキッカケに生まれた曲らしい。なんなんだ!

https://youtu.be/s11BuatTuXk
Dirty Old Town
ホイッスル担当のスパイダーによる、オープニングのハーモニカにシビれるトラッド寄りの曲。国道と虚無しかないK県県央地区で育った俺にはこのタイトルが染みる。少しだけ美人ベーシスト・ケイトが写ります。後にコステロと結婚。劇中でもネタにされてました。



【追記】
 2023年11月30日にシェインが亡くなりました。本作観てたとき、正直「長くないな…」と思ってましたが、やはり、という印象です。ぜんぜん節制する気無かったし、ホントにボロボロだったからね。むしろ65までよく生きた、という印象です。R.I.P☕️


【さらに追記】
 シェインの最低最高のエピソード。かつてシェインはU2のボノの家に住んでいたそうです。ボノの家は知られていたようで、また、電車が近くを通っており、電車から家が見えたそうです。
 そのような状況で、シェインは来る日も来る日も電車に向かってチ☆ポを露出して人間打楽器をやっていたそうです!ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル!
 この件についてシェインは「俺っちがチ☆ポをフリフリしていれば、乗客どもはボノがチ☆ポで人間打楽器やってるって勘違いするだろ?」
 その後、シェインは丁重にボノ家から追い出されたらしい。そんなボノとの友情は晩年に至るまで続いたらしい……って、ボノ懐深いな!
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