kazuo

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4.5
安楽死がテーマの作品。
脳卒中で倒れた父親が命を取り留めたが麻痺が残り安楽死を希望、娘は父親には拒否できないと協力する事になる…

主演のソフィー・マルソーに惹かれ、監督がオゾンとなれば絶対観る案件!シャーロット・ランプリング共演も嬉しい😊

オゾン監督らしい毒気ある、しかし愛のあるポップだけど生死に関して様々な思考を巡らされる深い作品。
安楽死がテーマながら作品が重苦しくならないのは、安楽死を望む父親(アンドレ)が芸術や美食を愛し自由を謳歌するポップなキャラである事が要因。そんなアンドレの病状が回復傾向が見られてからの言動は明るさもありどこか希望めいたものを感じさせるから、娘たちも淡い期待を抱いたりするけど結局父親の意思は変わらず、娘の気持ちは考えず段取りの進捗聞いたり急かしたりする展開がコメディ的要素になったりしている。

生きるという事は義務ではないし強要される事ではない。だけど身近な人の安楽死を容認し協力できるのか?出来たとしても内面は折り合いがつくのか?折り合いがついても大きな傷が残らないか?

私の母は重度の認知症で現在は施設にいるが、認知症になる前は認知症の方を蔑み嫌っていた。自分がそうなったら死にたい、恥だし人に迷惑をかけるからと。しかし結局認知症になり自分が忌み嫌っていた存在になり過去の発言を忘却し今も生きている。

私は介護従事者だから認知症に対して理解がある方だか、在宅で介護している時は徘徊や転倒に注意する為に睡眠時間もかなり削られ、その不条理な言動にストレスも溜まり心身が不調になり声を荒げる事が多くなっていた。そしてそんな自分に強い嫌悪感を抱き…

ゴダールの死を想う。

かつて笠井潔の小説で、特権的死への夢想として「私の死を私が死ぬ」という概念があったが、アンドレにとって安楽死は「私の生を私が生きる」のであり「私の死を私が死ぬ」主体的な事なのだろう。主体的であるが故に娘にかなり迷惑を掛けているが。

しかしオゾン監督は「まぼろし」の時にこの若さでこんな成熟した作品を作るのか!と感嘆したが、今作は安楽死からアプローチした他者の"生死"という重厚なテーマを軽快に描きながらも、深く考えさせる仕上がりに改めて才能を感じさせられた。

頬を伝う一筋の涙は観ている者の心に深く深く刺さる名シーン。

追伸 
中盤でソフィー演じるエマニュエルが観ている映画ってアジャ監督のハイテンションかな?
そんな感じのゴア映画を知的な主人公が観てるシークエンスを挿し込むオゾン監督、大好きです🥰
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