かとぅーらす

すべてうまくいきますようにのかとぅーらすのレビュー・感想・評価

4.0
ここらの劇場で公開が終わりそうな頃合いに父が死んだ。オゾン作品だから元より見に行く気だったけど、今しかない最高のタイミングだな、っと。奇跡とか天啓染みてた。
尊厳死とか安楽死とか。
人生を満喫してきた人間が大きな変化を迎えたことで死を望む。
わかるようなわからないような話だ。
ごくつまらない結論が先出しで頭を掠める。つまり、当事者でないとその気持ちや考えはわからない。
仕事は成功し裕福であり家族への責任もある程度は果たしてきた。後顧の憂いはなさそうだが、余暇を楽しむ感性が人並み以上にありその対象も尽きることはない。彼の生きいく理由だ。
物理的な自由さが失われたことで他者に依存しなければならない屈辱と絶望。彼の死にいく理由だ。
それを天秤にかけて安楽な死を選び取れるのは限られた層でしかないんだけれど。
人生辛くて死にてぇって思うのは、そりゃ誰だって一回や二回、五回や十回はあるけど、死ねない理由が大抵は勝つよな。その多くは、畢竟、他者との関わりって点に収束するように思う。恋人や友人が悲しむとか、私なら息子である愛猫が路頭に迷うとか。
誰かの想いを無視できるなら、あるいは、誰かの想いを理解し考慮した上で却下できるなら、安楽死するにしろ苦痛死するにしろ、少なくともその人は優しくないな。
死ぬしかないほどの境遇ってなんだろう。私はぬるま湯に浸かって生きている。

私の父は住宅ローンを返すために入院する前日まで働いていた。10年以上も糖尿病を患いながら、ガリガリに痩せた体でする仕事の内容はブルーカラーの肉体労働だ。74歳だった。
私の父は家族思いで努力家で、優しい人、であったとは思う。でも最後は諦めんだろうな。大腸ガンの検査に行った病院内で腸捻転を起こして緊急手術。人工肛門になったけど翌日には早速リハビリ。転移したガンには投薬治療を。数日で極度に肝臓の状態が悪くなりもう治せないと宣言され緩和ケアへ。ホスピスの見学に行ったんだよな。移れることなくそのまま死んだけど。治せるって聞いてたのに余命半年になって余命三ヶ月になって、大腸ガンだってわかってからたったの一ヶ月ってのが現実だった。死ぬ前日に面会した母に、全身が痛くてたまらない、って。
だから、諦めた最期だったと思うけど、父を亡くして私は悲しくてたまらなかったけど、文句も恨み言もない。感謝しかない。

いつものオゾンらしい生命と人生の描き方で、淡々と写実的でありながらも、どこか詩的。綺麗なところだけじゃなく汚いところも余すことなく見せてくれる。
役者もいい。ソフィー・マルソーさすがに老けたな。
尊厳死って本当に当人の尊厳のためのもので、他人の思惑を全く汲んでくれない死の形なんだね。それを尊重するべきかは一律に決められるわけがない。
安楽死は苦痛に塗れた状態への救済だから、一定の理解は得られるものの、線引きが難しい。
ただ死んでないだけでただ生きてるだけよりは、たまにはこんな哲学しておくのも悪くない。ってな作品。
私が好きなオゾン作品は愛情だったり異常さだったりを切り取ったものたちなので、普段の私ならそこまで刺さるテーマじゃないんだよね。
父の生き様と死に様が私の人生を豊かにしてくれたわけだ。

まぁ、こっそり300万くらい借金してることが存命中に2回あって、死後に3回目が発覚したりとか、なかなかのロクデナシだから、聖人君子では全然ない父だったんだけどね笑