櫻

すべてうまくいきますようにの櫻のレビュー・感想・評価

-
どうか幸せでいてほしい。人がその人として生きていることがこんなにもうつくしく、その人でいられなくなるのはどうしても哀しい。大切に思う気持ちだけ濁りなくあるならよかったけれど、憎悪や淋しさがマーブル状になって脳内でゆれている。もしも家族が死を望むなら、それしかその人として生きる方法がないのだと頑なに告げられたらどうするだろう。受け入れることはできたとしても、わたしはこんなふうにその人の前でだけは毅然と振る舞うことはできるのだろうか。「すべてうまくいきますように」この邦題は、死を望むその人への固く握った最後の祈り。

こんなにも自分の死を晴れやかな気持ちでむかえられるなんて幸せだ。それはまるで読み終わった本を閉じるようでもあり、ラストを迎えた映画がエンドロールを終えて幕をおろしてしまうようなものなのかもしれない。この世に一点の悔いや未練はないからこそ選んだ彼の自らの終焉は、金銭的な問題や協力してくれる人がいるかどうかなどの理由で万人が選べるものではないが、きっと他でもない自分を生ききるために必要な選択だった。死へ向かう人間をカメラは写しながら、「わたし」を生きる存在のうつくしさをスクリーンに映して見せてくれたように思えた。
櫻