このレビューはネタバレを含みます
【ドーン!!!】
監督アスガー・ファルハディの作品は前作「セールスマン」(16)を見のがしていたので、こちらを観れてよかった。その作品以前からベルリンやカンヌの国際映画祭で話題の監督だったので、本作も楽しみにしていた。誰にでも起こりうる、実に日常的なお話を、きちんと作品に仕立て上げる手腕は大したもの。
実に、些細な出来事なんだけど、故に、身につまされるというか、自分に置き換えて考えてしまうお話。
主人公のラヒムは借金が返せなかった罪で投獄されている服役囚。この境遇は日常的ではないのだけど、ちょっとした善行がメディアに取り上げられ、一躍時の人に。ところが、SNSで誹謗中傷がはじまると、なんとか取り繕うとすることでかえって火に油。息子にまで類が及ぶに至って、さあ、どうする?というお話。
とっても今どきな話ではある。
何が善で、何が悪か、人の行いのどこまでが正義でどこまでが不義か? とにかく話題性だけで容易に人を英雄に祭り上げるメディアは、一瞬にして人を貶める存在にもなる。
いや、メディアがというより、そのメディアに扇動され持ち上げては落とす安易な世間の態度も愚かしいとは思いつつも、ただひたすら恐怖でもある。
ある意味、世の常を改めて見せつけられるお話。
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(ネタバレ含む)
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異国の文化に触れられるという点では、このところ中東モノが実に面白い。「クレッシェンド」もだし、「白い牛のバラッド」しかり。本作も、服役囚なのに、軽犯罪ゆえか、「休暇」をもらって、塀の外で過ごすことができるというイランの法制度にビックリ。
舞台となった古都シラーズには、アケメネス朝時代の遺跡が残り、それこそ、その昔タリバンが破壊したバーミヤンの巨大石仏のような岩陰遺跡のような場所があるんだと、しばし異国を旅する気持ちにもなれる。映画って、ほんと、いいもんですねえ(笑)
とまぁ、異文化に触れる楽しみはありつつ、お話としては、どこの国のどこの誰にも起こりそうなことで、結局、言ってしまえば、主人公ラヒムが愚かではある話。
でも、誰でも陥りそうな罠が、世の中には、あらゆる局面で待ち受けているということを再認識させられる、寓話のような物語。
『笑ゥせぇるすまん』でもありそうなんだよなー。
本作では、自分の善行を証明するために、些細な嘘の上塗りを行う主人公。藤子不二雄Aなら — 先月、お亡くなりになったばかりですね。R.I.P. — 、そのウソが発覚して、それまでの人生が全て無に帰するオチにしたに違いない。
ラヒムは喪黒福造に、きっつい「ドーーーン!!!」をかまされるはずだ。『セールスマン』を撮ったアスガー・ファルハディの次の作品が『笑ゥせぇるすまん』的なことに笑っていいのか悪いのか。
「ココロのスキマ、お埋めします」という甘言には、くれぐれもご用心ご用心、と言ったところがこの映画の教訓?!