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レッド・ロケットのペインのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.3
“Red Rocket(発情した犬のぺ○ス🚀)”

『ワイルド・スピード』のパロディ映画、“ヒワイ(卑猥)ルド・スピード”ご出演経験をお持ちの、落ちぶれた元ポルノスターである主人公マイキー(サイモン・レックス)にまさかの感情移入?

いや、どう考えてもク○人間の極みなのは否定出来ないのですが…。ただサイモン・レックス(ラッパー兼コメディアン)自身の(実は)端正なルックスだったり、実際に彼本人が過去にポルノ出演経験があり、その映像が流出したことで一時表舞台から姿を消していたこともある…といったこれ以上とない役とのシンクロ率、そのハマりっぷり等々諸々の要素が加味されて、本作を“特別な1作”にしているようにも思う←

近年でも、主人公を演じる俳優(コメディアン)自身の低空飛行気味な実人生と役のシンクロ率が高く、“その作品”によってその人が“カムバック”するような例(※『レスラー』『バードマン』『ザ・ホエール』)等もあるが、本作のそれはまた少し別種な気もする。

本作のマイキー役のサイモン・レックスさんはインタビュー等を読んでいると、上記で挙げた3作品の主演俳優自身たちが本気で“再起”を図ることにかけていたのとは対照的に、どこか飄々としており、“みんなが観てくれて反応してくれるのはありがたいけど変わらず僕はずっと僕のままなんだよ~”と言わんばかりの素振り。その感じもまた劇中のマイキーと重なる←

また、とびっきりキュートな17歳のヒロインのストロベリーを演じたスザンナ・サンは、メガホンを取った本作のショーン・ベイカーが、映画館(※『『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも出てきたドーム型の有名な映画館アークライト・シネマズ)のロビーで自らスカウトしたというシンデレラガール。

監督はその時のことを「ズームレンズで抜かれたかのように一瞬にして彼女に目を奪われた」と話している。

本作のマイキー役のサイモン・レックスは、監督が彼のInstagramを見てキャスティングしたそうだが、同じく“アメリカ社会の片隅で生きる人々”のリアルな姿を鮮烈に描いた前作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』も、主人公役の女性はInstagramで発掘していたりする。監督曰く、“SNSはビジュアルやパーソナリティーを知る上では「とても便利なツール」”として活用するそうだ。

言われてみれば前々作『タンジェリン』も全編スマホ📱撮影をいち早く取り入れていし、監督は”映画のその先“、“新しい可能性”を見据え賭けているところがあるように思う(※当然“古典“を勉強し尽くしている監督であることもインタビュー等では伺えるのだが)。ちなみに本作の最も大きなインスピレーション元は、パゾリーニの『アッカトーネ』だそう。

SNSや道でたまたま見かけたくらいの演技未経験者を大胆巧みに配するそのキャスティング法や、「本当にそこでその人がそのように生きている」としか思えないような実在感を醸し出す演出法などから、“イタリア・ネオレアリズモ“ならぬ、“アメリカン・ネオレアリズモ”とも評されるショーン・ベイカー作品ですが、やはり『自転車泥棒』や『ドイツ零年』といったイタリアネ・オレアリズモ作品群とは対照的に、作品全体には“それでも”といった希望のようなものが常にある(※ちなみに本作のキャッチコピーは、「人生は、スウィートだ」である)。

前作同様、本作でも上記を象徴するようなとある“ファンタジックな飛躍”がラストには用意されていたりする。

是枝裕和やケン・ローチなんかからのインスパイアも公言しているだけあって、一見すると無造作にも見えるドキュメンタリックなショットの連なりや会話がメインでありながら、同時に色使いなどがとにかく派手で美しいのも興味深い(※本作の撮影は『WAVES/ウェイブス』のドリュー・ダニエルズ!納得!)。70年代感を醸す16ミリフィルムのざらついた質感の映像も非常に⭕

”A24全面製作“な前作『フロリダ・プロジェクト~』と比べると、たしかにわかりやすいパッと見の作品としての端正さや見易さは後退していて、もしかすると“バカな人が撮ったキチガイ映画”にも取られかねないバランスの本作だが、“社会の片隅で生きる人々”(※主にセックスワーカー)たちを綿密に調査し抜き、上からジャッジしない公平な眼差しと描写は、ある種前作以上に研ぎ澄まされているとも言える。

🇺🇸インディペンデント映画の奥深さを、層の厚さを感じさせる見事な逸品であった!(関係ないが監督イケメン♂️)
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