木蘭

レッド・ロケットの木蘭のレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
3.5
 一流のポルノ男優を気取ったポン引きヒモ男のポンコツ人生を描いたビターなコメディ。

 主人公は本当に人でなしで酷い男なんだけど、お調子者でバイタリティあふれ、とにかく前向きな姿に、ついつい感情移入して応援してしまう自分がいる。
 それでいて、詰めが甘く、人を大切にしないが故に、同じ所をグルグル回るポンコツ男のコメディに成っている。悲しい。
 ある種ノワール映画的な構造の物語になっているのだが、ダメ人間達の話なのでカタルシスはあんまり無い(苦笑)。
 フルチン全力疾走のクライマックスは感動したけど。

 出てくるキャラクターは全員、何かしら問題を抱えた、お世辞にも善良な人間とは言えないのだが、何処か間抜けで何処か憎めない。
 恐らくそれは、主人公と嫁、愛人(要するに脱ぐ役の人)以外は、監督達がスカウトした地元の素人が演じているという事も大きいのだろう。これがプロの俳優だったら、もっとドスのきいた悪辣なキャラクターに成っていそう。
 このほぼ素人だらけの配役(愛人役のスザンナ・サンも、これが映画初出演)というのには驚きだが、義母役のブレンダ・ダイズの演技が素晴らしくて、監督の演出力の高さを感じざるを得ない。

 湿気とうだるような暑さのテキサスを16mmフィルムで撮る!・・・と聞いて、『悪魔のいけにえ』?と思ったがそんな絵面の作品ではなく、もっとポップでレトロな・・・ミッドセンチュリーの米国を感じさせる映像だった。
 とはいえ、緑色の光線の中で嫁と義母がニタリと笑うシーンは怖かったけどね。

 監督は米国社会の縮図としてこの物語を作っているとの事で、なるほどね・・・と思いつつ、主人公がこちら側に引きずり込もうとする女の子との階層の断絶を、視覚的に感じさせられてしまって痛々しかった。
木蘭

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