スペクター

レッド・ロケットのスペクターのネタバレレビュー・内容・結末

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

映画館で見てる途中から、これは凄い映画なんじゃないかと思えてきた。

主人公がクズで、感情移入出来ないのは意図的なんで、それが理由で低評価の人はちょっと待ってと言いたくなる。

主人公マイキーはドナルド・トランプと本質的にほとんど同じなんだよ。
①超ナルシスト、自慢話大好き
②利用できる人、ものは何でも利用するが、他人のことは一切考えない
③平気で嘘をつく
④外面だけは良い
⑤無責任
⑥法やルールの軽視
⑦罪悪感、モラルの欠如
⑧非理性的(情緒不安定)
⑨危機管理能力の欠如
⑩人間関係が希薄(故郷に帰ったのに家族や友人が登場しない)

共通点はこのくらいかな。とにかくイキってて、男らしさをひたすら誇示してる。根拠がないのに自信だけはある様は瓜二つでしょ。滑稽にさえ感じる。
こういう人間は自分を高くデカく見せたがり、それで周りの人を騙して他人よりオイシイ思いさえ出来れば良いという。しかし実際に高くデカくなる気は無く、振る舞いと実績がかけ離れている。中身はスカスカ。
クズでダメ人間だけど、そこと向き合うことは決してなく、誇大妄想で都合の悪いことを無いことに出来ちゃう奴ら。
他人に災厄を撒き散らす疫病神と呼ぶのがふさわしい。

故郷に帰ってきた理由もLAで結構なことやらかして、居場所がなくなったから。仕事を探すが、職業差別的理由でどこからも雇って貰えない。

ある日ドーナツ屋で魅惑的な美少女ストロベリーと出会い、彼女を無理やりポルノ女優に仕立て上げてポルノ業界に返り咲こうとする。決して褒められたことではないが、彼女も主体的な野望があるみたいで、男をあっさり乗り換えるのもどちらと付き合った方が自分の目的に近づくか秤にかけた結果でしょう。そういうことは好きだけど、仕事にはしたくないって言葉にしてるし。ただ、二人共田舎町で人生を終える気は無く、成り上がってやるぞという点は共通してる。

レクシーも同じような目に遭ってマイキーとポルノ業界に抜け殻になるまで吸い尽くされ、挙げ句捨てられたのだろう。そこから薬に溺れて、別の男との間に子供がいたけど、親権を取り上げられたらしい。仕事にありつけず、体を売ってその日暮らしをしている。

一番可哀想なのは隣人の若者ロニー。ヒョロガリで弱そうな彼は似合わないヒゲを生やし、在籍していたこともない軍隊の服を着てでも男らしさにしがみつくのは、常にイジメられ、さぞ生きづらい人生だったのだろうと思わせる。そんな彼には男らしさを誇示してるポルノ男優という肩書きを持つマイキーがさぞ輝いて見えたんだろう。
マイキーはそんなロニーをアッシー君兼自慢話を有り難く聞いてくれる都合の良い奴として側に置くも、後半結構な事故をやらかした際には当然のようにロニーをスケープゴートにしてバックレる。その後のマイキーのリアクションを見て「うわー、クズーーー!」となった。本作最大のブーイング所。

いきなりだが、トランプ支持者には目を覚ませと言いたい。あのロニーはあんた達なんだよ。あんた達もいざとなればあんな風に切り捨てられるんだぞと。
あんな稀にみるレベルのクズ野郎がなぜ支持されているのかといえば、奴の本性を知らないからではないのか、外面の良さに騙され、利用されているからではないのか。もし本性を知れば誰もが愛想を尽かし、見放すのが当然だと思うんだが、なかなかそうはならないのが理解に苦しむ。

映画終盤ではマイキーにとうとうしっぺ返しが来て、文字通り裸一貫で走る姿が妙にお似合いで笑ってしまう。すがるようにストロベリーのもとに駆け付けるも、現実かどうか怪しくなるラスト。アレはマイキーの妄想なのか。又は俺も用が済めばこの娘に捨てられるのかと思ったのか…。

この映画は社会的なメッセージが説教臭さなしで込められていて、きちんと見れば誰もがある程度読み取れるようにできている。ポスターや予告ではそんな映画には見えない。
民主党、共和党どちらを支持してるに関係なくマイキーはクズだと思うだろうし、現実社会に当てはめることが容易だろう。

説明台詞はほぼ無しで、登場人物の見た目や会話を通して人物造形を描けている。チープな回想シーンも無い。
既存の俳優に頼りきらず、道端で出会った素人を適材適所に配置し、演出してるあたり流石ショーン・ベイカー監督。この点では是枝監督より勝っているかと。登場人物全員が本当にこういう人達がいるようにしか見えなかった。
そして廃墟や工業地帯を自転車や車で走っているだけなのに、カラフルで魅力的に見えるシーンもある。
この映画を撮影した時期がコロナ禍真っ只中。しかもトランプの下僕達が州政府を支配していて、感染対策や規制がガバガバだったテキサス州でロケしているという皮肉。
ショーン・ベイカー監督の評価が更に上がった。クズ共と違って見かけによらず深く中身のある傑作。
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