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レッド・ロケットのhasisiのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
3.6
米国の南中部、テキサス州。メキシコ湾岸のテキサスシティ。石油精製の工場が建ち並ぶ港町である。
マイキーは、ロサンゼルスでポルノスターとして活躍していた中年男性。とあるトラブルを切っ掛けに17年ぶりの帰郷。
極貧のマイキーは、籍を入れたまま別居中だった妻の実家を訪ね、頭を下げて住ませてもらう。
仕事を見つけようと努力するのだが、どこも履歴書に難色を示して雇ってもらえず、苦労するはめに。

監督は、ショーン・ベイカー。
脚本は監督と、クリス・バーゴッチ。
2021年に公開されたダーク・ドラメディ映画です。
※主人公の特異な行動に触れながら感想を書いています。⚠️
(中盤に注意)

【主な登場人物】🔴🚀
[ジューン]売人の娘。
[ストロベリー]店員。
[マイキー]主人公。
[ナッシュ]金のネックレス。
[リル]義母。
[レオンドリア]売人。
[レクシー]別居していた妻。
[ロニー]仲良し。

【概要から感想へ】🏭🚌
ベイカー監督は、1971年生まれ。ニュージャージー州出身の男性。
母親は教師。父親は弁理士と、お堅い職業の家に育つ。
2000年に長編デビューで、本作が7作目。コメディが得意だが、意外と3作目でドラマ寄り。

ずっと低予算だけど、前作の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』から配給会社がA24に移り、レビュー数も爆上がり。
……にも関わらず、本作でも予算集めに苦労して、110万ドルのジリ貧状態で製作。

不倫や麻薬などの、タブーを扱ったエクスプロイテーション映画の専門家。
今回は元AV男優が主人公。引退した性労働者のその後にスポットを当てている。
扱っている題材のわりに、信頼できる監督として、性道徳の観点から評価が高いらしい。

これって裏を返せば、まじめで退屈な人って言われているようなもの。
犯罪者的な心理を満たしたがる映画業界では天然記念物なので。
貴重価値が高い、という逆転現象が起きている。

誠実に生きている人が、映画に夢を求め、悪い欲望を満たす方向に進むのだが、
同時に「こんな事をしていて、いいのだろうか」と罪悪感がつのってゆく。
(ギルティ)

ドラメディで129分? 90分が限界なんですけど。

🍩〈序盤〉🛋️📺
妻の実家に転がりこんで職探し。
マイキーは、むきむきで超おしゃべり。
訴える、甘える、うるさいけど、性格に癖がなくて嫌な感じはしない、という絶妙なラインをついてくる。

ヒモの才能のある男を知る教材として優良。
意地悪、否定的、理解できていなのにダメ出ししてくるなど、どれかに引っかかれば、追い出し決定なのだが。
どれもやってこない。
お喋りは、ラジオだと割り切って聞き流せばいいので、むしろ付き合いやすい方。

生き甲斐探し。
居候なのに思いのほかよく働く、いい男。
ようするに、1人だと生きている実感がない。
家族が欲しいから、愛情の押し売りをしている。
現実だったらスリラーだが、自虐的なコメディにしてあるので楽しめる。

けど、時間が経過すると、じょじょに我がままに。奉仕マウントで自分の家のように仕切りはじめる。
男って本当に馬鹿。どうしようもない生き物。

🍩〈中盤〉🪩💸
浮気する上にロリコン。
頭がおかしい。
仕事に熱中して気づいたら小父さんになっていた。
才能がある人たちが持つ過集中の代償。
時代に名を刻むか、家族に呆れられて捨てられるか、うつ病で自殺するか。
周りにも結構いるので、痛くて見ていられない。

小父さんとしてどれだけ痛い行動がとれるか集。
ようするに、青春時代のやり直し。
トラブルの相手を含めて、経験と重なる部分が多くて普遍的。
若い頃は楽しかった、でピンとくる男性であれば、おおむね気に入るだろう。

🍩〈終盤〉🛻🛌🏼
家族に厳しくて、自分は棚上げ。
90分越えてからのドラマ色の濃さに悶絶。
セックス描写もエスカレートし、心をえぐってくる。
笑っていいのか、悲しいのか複雑。

日常で味わえる痛い行動の沸点へ。
犯罪と絡んでスリリング。心臓がドキドキしたが。
結局、マイキーが「1番怖かった体験」はフィクション絡みの大事件より、「調子に乗った行動の代償なんだな」と分かり、視聴者との共感性が優先に。
『かがみの孤城』と同じ。ボッチが集団と対峙したトラウマで、純粋な少年のままだった。

【映画を振り返って】🚴🏻‍♂️🌅
飾り気なし。
よくぞここまで自分の人生とちゃんと向き合えたで賞。
「気持ちは学生時代のまま」
とか、
中年なのに、若い子の役が妙に上手い人たちの脳内が覗ける。
映画で知る人類学100選に入れたい名作。

🌿ゆるい。
無職のひまな時間をだらだら過ごす。
ボケの間隔が広いが、どっしり。堂々と描いてあるが。
それにしたって長すぎる。

ロケーションが好き。昼も夜も綺麗。出かけた時に写真撮りたくなる風景の好みが合う。
海辺の町を舞台にして、年齢も近いから、心象風景と重なるのだろう。

膨らみつづけた風船の破裂。
ばれないからって調子にのって悪い事ばかりしていると、後で酷い目に合いますよ、な教訓的な作りをしている。

📱AVスカウトマン。
はあ、それにしてもきもかった。
主人公のマイキーが最悪な奴なので、視聴したら女性は怒るかも。
男性も、自分が気持ち悪く思えてきて、自己肯定感が下がるので覚悟が必要です。
鑑賞後感も、マイキーの顔が浮かんできて鬱陶しい。
(いっこくも早く記憶から消して現実逃避したい)
高評価なので迷わず選びましたが、
本当はAV男優になりたかった、のような性欲の強い人にしかお勧めできないなんて、意外とニッチな内容だった。

……とは言え、気分を害するのもまた映画体験。
男の不倫を笑って許せるような、大人の余裕のある方であれば、止めはしませんけど。
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