木蘭

ニトラム/NITRAMの木蘭のネタバレレビュー・内容・結末

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

 豪州で起きた無差別発砲事件の犯人というセンセーショナルな題材を丁寧に描いた凡庸な映画。

 実際の事件を題材にしている為、詳細にリサーチして制作はしているらしいが、犯行動機も含めて分からない事が多い事件なので、劇映画として創作した部分は多岐にわたるし、実際は存在した人物(妹、ヘレンの母など)を省いたりもしている様だ。
 結局、その上で何を描きたいのかが重要になるのだが、これがまた曖昧なのだ。

 脚本家は反銃器映画として物語を執筆したとの事で、確かに主人公が銃器を手に入れるシーンを丹念に描き、当時の野放図な豪州の銃規制に驚愕する一方で、彼が銃器に執着する心の描写は無いに等しいので、物語としての唐突感が激しい。

 監督は主人公と彼を取り巻く人々の人間模様や、事件にいたる主人公の心理を描いたとの事だが、作劇の散漫さで描き切れていないし、感情移入も出来ない。
 明らかに発達障害の主人公で・・・コレが正しいという枠にはめたがる母親の圧が彼を追い詰めているよな・・・とか、「誰がカウンセリングが必要なの?」という台詞は暗示的だよな・・・とか、父親に暴力を振るうシーンでの母親の様子を見ると、彼も同じ様な虐待を母親から受けていたのかな?・・・とか、運転を邪魔する悪戯は子供の頃に一度やって受けた思い出があったのかな?・・・とか、色々と行間を読んで観ていたが、特に回収される事無く放り出された。
 
 監督は主人公たちの孤立感を描く意図もあったらしく、特に主人公が銃器を買い集めるエピソードは、こんなに分かりやすくヤバい事をしているのに誰も気が付かないし気にしない。
 どこかで誰かが手をさしのべれば・・・と、社会と上手く交われない人間への無関心や疎外を諫める思いを込めたとインタビューでは言うのだが、その割にはエンドロールに表示される主人公の役名すら、一人の人間としてのマーティンじゃなくて"ニトラム"なんだよな・・・。

 観ていてメリハリが無いし、焦点が絞りきれて無くて、疲れてしまった。こういう映画って良くあるよな・・・というのが正直な感想。

 画面に描き出される全てが、日に焼けたフィルムの様に色あせ、ホコリっぽく、登場人物たちは教養や豊かさからは見捨てられたかの様な惨めさを感じさせ、成功しているビジネスマン(ウーマン)たちの虚構に満ちた笑顔が悪意を持って描かれているのは凄いと思ったけどね。
木蘭

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