てっちゃん

ニトラム/NITRAMのてっちゃんのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.1
これは問題作というか危うい作品というか、ずしんとくる系の作品。
オーストラリアで実際に起きた銃乱射事件の犯人マーティンを描いた作品。
ただ本作では、マーティンが犯行に及ぶまでの経緯を描いており、直接的な犯行描写や被害者や加害者の事件後など、事件そのものは描いておらず、ひたすらにマーティンの犯行経緯までを描いている。

凶行シーンも観たい(グロ好きとかそういう次元の話ではなく、これだけ犯人に寄り添った作品なんだから最後まで描かないと、という意味での話)という意見もあるかもしれないけど、私はここで終わるべき作品だったと思うので十分。

理由としては、本作の意図しているところは、結果ではなく過程を描いている作品だから。
マーティンという人物が、どのような人間関係があって、どのような日常を送っていて、どのような経緯で銃に興味を持ち、どのような意図で凶行したのかを描いているから。

マーティンが凶行へ走った小さな芽をいくつも感じることだろう。
その小さな芽の大きさは人それぞれだろうけど、感じ取ることができる。
それでは、その小さな芽を摘み取ることは、誰ができたのだろうか。

両親?近所の人たち?行政?
誰に責任があったのだろうか?
本人の意思の問題?
これは明らかに本人でどうこうできた問題ではない。
父親が夢見ていた物件を購入できていたら大丈夫だったのか?
母親が付きっきりでマーティンを監視していれば良かったのか?
ヘレンがお金を与えなければ良かったのか?
銃を販売しなければ良かったのか?

いろいろと考えたけど、私には答えが見つからなかったし、途中途中で避けれたとしても終着点は変わらないような気もする。
"運命"という言葉だけでは片付けられない。
確かなことは、いくつもの偶然が重なって、もともと持っている”悪意”とそれが重なって、事に及んだということ。

事に及ぶ前に、阻止することはできたのか?、できた筈。
でも誰が阻止できたのか?
極論になるけど、本人含めて全員ができた筈。
でも、そんなこと責めれる人なんていないでしょ。
そんな考えが堂々巡りしてしまい、鑑賞後も暫く座ってしまっていた。

マーティンを演じたケイレブランドリージョーンズさん。
実際のマーティンとそっくりというのもあるけど、表面化しない狂気と悪意と純粋さが蠢く怪演っぷり。
私がこの人と街中で出会ったら、絶対に自分から近づいていかないであろうデンジャーっぷり。
役に喰われて、取り込まれて、裏側からべろっとめくれたような感じ(何言ってんだこいつ)がするほどに、本物っぷり。

類似作品で言えば、フォックスキャッチャー、少年は残酷な弓を射る、ロード・オブ・カオスの前半とかでしょうか。
この辺りの作品がお好きでしたら、おすすめでございます。
てっちゃん

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