Automne

ニトラム/NITRAMのAutomneのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.3
静かなる狂気。説明など一切なく犯人の人生を切り取ったような仕上がり。ずっと不穏であり、何か起こるようで起こらない。鑑賞体験として気持ちの良いものとは言えない。ある種生きづらさや障害が原因となったような演繹的な描き方こそされているものの、元々彼個人の中にあるおかしさ、理不尽な暴力性などはあきらかに生得的なものであり、病気の類で誤魔化せるものではない。彼は殺人をしているのであり、生きづらい人間が殺人をすることを肯定することはあってはならない。ある種生きづらさを言い訳に犯人を正当化することなく、病気でも家庭環境悪くても、あきらかに非が犯人にあるときにはそれを主人公として物語っても何かそれ以上のものが生まれることはないのだとしみじみ感じた。

結局これをエンタメ的に消費して、真面目な顔して「どうすれば良かったんだろう😥」とか言ってる人は、映画『愛がなんだ』を見て「愛って一体なんなんだろう?😢」って言ってるひとたちと同じ人種だし、戦争になったらだんまりを決め込むのだろうし、いざ自分の目の前で問題が起きた時に見て見ぬふりをするだろう。なぜなら切羽詰まってないから、自分だけ安全な位置から評論家気取りで物事を語ること、そのことに自己陶酔しているだけだからである。

そろそろこういう道徳の教科書ぶったシリアス風ポルノの危険性について誰か気づいてほしい。結局その問題を安全な位置からあーだこーだ言うことで何か変わるわけでもなければ、たかが映画一本分の時間で問題を知った気になって真面目なつらしてるのが1番社会にとって害悪なのだ。正義っぽいものごと、正義っぽい表現、正義っぽい意見を持っているというなんとなく看板を掲げて悦に浸る人が多すぎる。それは自分たちがぬくぬくと温室育ちで豊かな環境にいるから言えることであって、かたや海を渡れば自分達のことでいっぱいいっぱいな人がいるわけでしょう、そもそも問題を語ろうとしているひとたちは自分達の生活に対してうまく向き合えているのか?そこを問いたい。

“生きづらさ”テーマは流行ってるし、安易に共感されやすいしホットだしやりたいことは分かるんだけど、ご都合主義が目に余る。都合よく主人公に擦り寄ってくる謎の富豪おばあちゃん(しかも遺産はなぜか全額もらえてしまう。映画において経済の問題って社会的なことがらを描くのにとても大事になってくる要素だと思うのだけど、そこを無視している時点でリアリティが消失している)、都合よく銃を売ってくれる店主(これはリアルでそうだったとしても、ラストでわざわざメッセージ置いておけるくらい深い描き方はできてなかったよね)、都合よくほどほどに主人公を遊ばせておく親、など。リアリティない上に、そうやったらそうなるの当たり前じゃんっていう予定調和に帰する面白みのなさ。そうです、圧倒的にひと目みての“おもしろさ(interesting)”が足りないのだ。もう一歩です。
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