みかんぼうや

ニトラム/NITRAMのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.8
1996年にオーストラリアのポート・アーサーで起きた、同国史上最悪の無差別銃乱射事件を描いた作品。最悪の結果が分かっているだけに、いつ“その時”がやって来るのか、という何かいつ爆発してもおかしくない不発弾を抱えながら終始映画を鑑賞しているような不安感や恐怖感があり、最初から最後まで一切気の抜けない緊張感のある作品だった。

銃乱射事件の実話物でいうとカンヌのパルムドール受賞作「エレファント」を思い出す(こちらは米国コロンバイン高校の銃乱射事件が舞台)。どちらもドキュメンタリータッチの物静かな演出で淡々と見せていく様子、バックミュージックがない中で響くピアノの音色、犯人と周りとの関係性の描写などはとても似ている。

が、「エレファント」の犯人たちは、ある意味理性を保った少年たちの計画性のある行動であるのに対して、本作の主人公であるニトラムは、精神障害を抱えており序盤から描かれる彼の言動に “常人では計り知れぬ感覚”を内包した独自のパーソナリティをひしひしと感じ、来る“その時”までの不穏な空気感や恐怖感は本作のほうが強い。これは、ニトラムの不安定かつ不気味な言動を見事に演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズの確かな演技力もかなり大きいだろう。カンヌ主演男優賞も納得。

一方、“その時”の演出について、本作は賛否が分かれるかもしれない。本作の見せ方も納得ではあり、こちらのほうが好みの方がもいるだろうが、私は「エレファント」のズシズシと迫りくる怖さと生々しさのほうが好きだった。その点ではどちらの作品がより好みかは分かれるところ(個人的には、この類の作品が初めてであった衝撃性も含めて「エレファント」のほうがよりインパクトは強かった)。

しかし、両作ともに共通して言えるのは、銃に対する静かだが猛烈な抗議。私は本当に銃が大嫌いで(映画で観る分には好きですし特にマフィア映画などは大好きなのですが)、物事を変えるには“変える側”と“変えられると困る側”のそれぞれの事情があり、必ずそのどちらの視点も考え理解しようと試みるが、こと銃規制に関しては“変えられると困る”の視点を無視してでも徹底的に断行すべき、と思っている人間なので、「エレファント」や本作のような作品を観ると、それでも銃規制がされないもどかしい現実にただただ強烈な憤りを感じてしまう。だからこそ、こういった作品には辛さがあるものの、作品としての大きな意義を感じている。
みかんぼうや

みかんぼうや