Masato

ニトラム/NITRAMのMasatoのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.3

オーストラリアで起きた無差別大量殺人事件、ポート・アーサー事件の犯人の実行までを描いたドラマ。

恐ろしいまでに淡々としているし直接的なシーンは無いが、事件の犯人であるマーティンのイノセントな危うさに終始ゾワゾワと身体が疼く。動機がわかっていないためハッキリとは描かれていない。ただ見てもらえればわかるとおりに、銃の問題について描いているのは確かだ。

wikipediaには知的障がいであるということが書かれているが、その通りだった。何もかもがイノセント。様々な出来事に対しての対処のしかたや反応のしかたが10歳の子どものようだった。だからそれが間違っているとは思っておらず正しいことをしようとした結果だった。ただ子どもなだけなんだ。

しかも彼なりに変わろうと努力していた。今までのサーフィンしたりして大人っぽいことをしようとしてたのはそのためだったんだと分かるシーンは辛かった。それでも変わることができなくて変わる方法が分からないって母親に伝えたのに、母親は理解できなかった。あそこで理解できていれば変われたかもしれない。もしかしたら変わろうとしてあの行為に及んだのかもしれない。

私はただただ悲しかった。銃を持てるという選択肢がなかったらきっとこのようなことにはならなかったはずだ。彼はただ社会を理解できない子どもだっただけだ。NRAは「銃が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ」をスローガンとしているが、そんなのは詭弁だ。銃が人を殺す。人に容易に殺すという選択肢を与えている。

見事な画作りと俳優の演技力の凄まじさ。スタンダードサイズに近いアスペクト比で温かみのあるのどかなタスマニアの風景を映した映像が美しいのに、事の顛末はあまりにも悲惨。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、良い俳優だ。
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